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幕間 とある紳士が遺した、創作のための個人的な手記①

 素晴らしい出会いをプレゼントしてくれた運命に祝福を。


 今日もつまらない一日が終わる。

 私はそう思っていた。

 

 夕刻、私はお気に入りの窓際の席で、お気に入りのコーヒーを飲んでいた。

 沈む夕日を眺めながらの黄昏、そんな時、運命の出会いは訪れたのだ。


「そんな言い方はないですよ!」


 不意に私の至高の時間を邪魔するような、野蛮な声が響く。

 せっかくのおいしいコーヒーが無駄になり、少しのイラつきを私は覚えていた。


 いやいや良くないね。怒りは何も生み出さない、こんな日もたまにはあるかと、私は席を立つ。


「それでギルドマスターがあなた方に是非お会いしてお礼が言いたいと申しておりまして」


 ん? ギルドマスター? 会いたい? そんな言葉が耳に届いた。

 ギルドマスターと言えば、このアスアレフにある全ギルドを統括しているギルド内の最高権力者。

 酔狂などでその辺の冒険者などと面会することはありえないはずだ。


「行くぞニばばばばばばばばば」


 すると先ほど痴話喧嘩をしていたカップルの少年が何やら電撃を浴びている光景が目に飛び込んでくる。

 少年は、およそ人間が発するとは思えない声を上げていた。


 あれは奴隷への仕置きとして用いられるものだったはず……。


 あの二人に少し興味が出た私は、椅子に座り直し、コーヒーカップを片手に聞き耳を立てることにした。


「あなたがこれ以上怒られるのは不憫です。私たちでよろしければお力になりますよ」


 少女の方が受付の女性にそう言うと、女性の顔は晴れやかのものとなる。


「助かります。では、応接室にご案内しますね」


 受付の女性はカウンターから出てくると、少女を奥の応接室へと案内し始めた。

 それを見送る少年。

 なるほど、奴隷は主人の大事な話が終わるまで外で待機か。

 言葉で発さずとも行動に移せるとは、なかなかに躾が行き届いている……と思っていたら、少女はくるりと振り返り少年の元へ戻ってきた。


「何してるんです? 行きますよ――」


「へいへい」


 少女はラグナスという名の少年を連れ、そのまま受付の女性と共に応接室へと消えていった。

 

 ……。


 通常の主従関係とは違う……?

 先ほどの返事は、奴隷では考えられない。

 それに少女も奴隷に対して仕置きをしていない。

 その権限を保有しているにも関わらず、だ。

 

 あの二人……何かある。

 自身の第六感が覚醒し、交感神経を刺激する。

 いつの間にか私の手は歓喜に打ち震えていた。


 面白い……、すごく面白い。

 

 興味の火種が燃え上がった私はもう止まらない。

 

 決めた。

 私は、あの二人をどこまでも追いかけ続けよう。

 彼女らが私にもたらしてくる煌めいた無数の糸。

 それらを繋ぎ合わせ、一冊の物語として書き上げるために。



 始まりは、ここより紡がれる。



―― シュケーテル・ウーヌス・パパラッチメンの手記第1ページより ――

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