第六十二話 語られる次なる指針
新しいスキル。
ルーシィの左眼が本当にスキルクリスタルならば、手に入るはずなんだ。
ただ今回のスキルクリスタルはロギメルのもの。
前にスカーレットが言っていた、既に習得しているスキルのヒントの一つが確かロギメルじゃなかったっけか?
「なぁ、もしかして新しいスキルは早熟か超回復なのか?」
「そうじゃ。儂の言っていたことを覚えておるとはなかなか殊勝なことじゃな」
スキルクリスタルとの共存。
虹色のスキルに限ってのみ、一定の間スキルクリスタルと共存をすることで習得をすることができる。
それはステータスパネルにも反映がされていないから、本人は習得していることに気付かない。
俺はかつて馬だったルーシィと長い間一緒に居た。
なるほど、その時にスキルを手に入れていた訳か。
「じゃあわざわざスキルクリスタルに干渉をする必要はないんじゃないか?」
このロギメルのスキルクリスタルから得られるスキルが早熟か超回復かは分からないが、習得したと思われる時期的に恐らく超回復の方だと推測はできる。
ただいずれにせよ両方を既に習得している今、わざわざ干渉してステータスパネルに表示させることに意味を感じない。
強いて言うなら、そのスキルの効果を実際に確認できるようになることぐらいか。
「干渉は絶対に必要じゃ」
しかしスカーレットは、そんな俺の言をバッサリと切り捨てた。
「重要なのはお主の身体がそのスキルを習得していると知覚していること。即ち、スキルクリスタルに干渉し、実際にスキルを確認できるような状態にしていることが大事なのじゃ」
そしてスカーレットは俺に尋ねた。
「なぁ、ラグナス。虹色のスキルを習得した時、消費されたSPはどうなったと思う?」
「消費されたSPがどうなったか?」
俺は最初虹色のスキルを習得するには大量のSPが必要だと勘違いをしていた。
しかしそれはとあるスキルを手に入れた時に分かると、スカーレットは言っていたはずだ。
「自分で濁しておきながら意地悪な質問じゃったな」
スカーレットは少し申し訳なさそうな表情でそう言い、続けた。
「消費されたと思われているSPは、それぞれの虹色のスキルの中に留まり続け、一定のSPが溜まった時、とあるスキルの効果をもって虹色のスキルは目覚めの時を迎えるのじゃ」
「目覚めの時を迎える……」
「虹色のスキルは習得した段階では本来の力を内に秘めたまま眠っている状態にある。それを目覚めさせるには、スキルクリスタルに干渉しておく必要があるのじゃ」
虹色のスキルは眠った状態、本来の力を内に秘めている……か。
それが本当なら、俺のスキルは更に強くなる可能性があるということ。
スカーレットがスキルクリスタルへの干渉を促すのも納得はできる。
「分かった。ただ一つだけ……」
これだけは確認しておかないとな。
「……ルーシィの身体に影響は無いのか?」
ルーシィの左眼のスキルクリスタルへ干渉することによって、ルーシィの身体に悪影響が及ぶのではないか。
「スキル習得をする分には何も影響は無いのじゃ」
そんな俺の思いを余所に、スカーレットは楽観的にそう答えた。
「信じていいんだな?」
「なのじゃ」
スカーレットは色々なことを俺に隠している。
紛らわしいことも言うし、茶化すように誤魔化すこともある。
だが、一度も嘘をついたことはない。
「分かった」
俺はスカーレットの言葉を信じることにし、そっとルーシィへ近寄った。
「痛かったり、身体に何か異常を感じたらすぐに教えてくれ」
俺の言葉にルーシィは黙って頷く。
それを受けて俺は、左手を彼女の左眼へとあてがった。
そして、ゆっくりと念じる。
瞬間、彼女の左眼のスキルクリスタルが虹色の光を放ち始めた。
「ルーシィ!?」
ルーシィが苦悶の表情を浮かべているのに気付き、俺が慌てて手を放そうとすると、彼女は大丈夫とばかりに俺の腕を掴んだ。
「少し眩しいだけ……だから」
そう言ってルーシィは俺に微笑む。
そんなやり取りをしている間に、光は収縮し、俺の中に消えて行った。
「ルーシィ、大丈夫か!?」
「うん、私は平気」
ルーシィの変わらない声色を聞いてほっと胸を撫で下ろした俺は、早速ステータスパネルを開いた。
********************
ラグナス・ツヴァイト
Lv:1
筋力:G
体力:G
知力:GG
魔力:G
速力:GG
運勢:GG
SP:0
スキル:【レベルリセット】【超回復】
【エリクサー】【ランダムスキル】
【天下無双】
********************
=======================
超回復
レベル変動時に強制的に体力、魔力、状
態異常を全回復させる
=======================
やはりロギメルのスキルクリスタルから習得していたのは超回復のスキル。
効果は以前スカーレットから聞いていた通りだ。
これでひとまずスキルを習得したと身体に知覚させることはできたらしいが、それよりも気になるのは先ほどの話。
教えてくれるかどうかは分からないけれど、ダメ元で聞いてみるか。
「なぁ、さっきの話なんだが……」
「虹色のスキルたちを目覚めさせる、世界を司るスキルクリスタルから得られる虹色のスキルの名は『白醒』。最果ての地で生まれたそのスキルクリスタルは、400年前の英雄と共に眠っておる」
「白醒? 400年前の英雄?」
唐突にもたらされる様々な情報に頭が混乱する。
英雄と言えば、思い当たるのはルリエルの言っていた英雄の話。
その英雄もまた、俺の天下無双に似た力を使っていたらしい。
ここまで繋がりを感じさせられては、もう無関係と切り捨てることはできないな。
「英雄最期の地、その地はかつて存在した国ディアインにある。今はリーゼベトの一部となってしまったがの」
ディアインと言えばリーゼベトの最初の侵攻によって滅んだ国。
そして、スカーレットのヒント通りなら俺が最初に習得した早熟のスキルを宿したスキルクリスタルを保有していた国だ。
「儂が示してやれる次の指針はディアイン。その地で白醒を手に入れ、そして虹色のスキルが持つ意味、その真実の一部に触れてくるのじゃ」
「――そこに行けば、この虹色のスキルの意味が分かるのか?」
「なのじゃ」
一言、スカーレットはそう言い頷いた。
今まで俺が培ってきた全てが崩れ去るきっかけとなったこのスキルの意味。
それを知ることで俺は本当に強くなれるのだろうか。
少なくとも白醒のスキルは俺の持つ虹色のスキルを目覚めさせ、本来の力を取り戻すものらしい。
更なる強さが手に入るのなら、俺が選ぶ道は唯一つだ――。