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第二十話 手がかり


「この子が聖獣の子供?」


「ウリンちゃんと言います」


 ピギッ!


「あらやだ、可愛い」


 ギルドマスターは頬に手をあてがい、うっとりとクソ猪を眺める。

 アールヴはそんなギルドマスターにクソ猪を保護した時のことを説明した。


「正直な感想としては信じられないの一言だけど、こんなに懐いている姿を見せられてはね……」


 アールヴの膝の上で気持ちよさそうにプギープギーと鳴いているそいつを見て、ギルドマスターは考え込んでしまった。


「何にせよこれで聖獣問題は解決だろ」


 早く終わらせたかった俺は、そこで話を打ち切りにかかる。

 ギルドマスターも「そうね」と納得してくれた。

 さてさて、やっと終わったな。俺はうーんと背伸びをする。

 アールヴが勝手に話を進めたせいでどうなる事かとは思ったけれど、結果としてこのギルドマスターが良い人そうで良かった。信頼できるかどうかは分からないが、今のところは俺たちに敵意がないと判断しても大丈夫だろう。アールヴことニナのお母さんの知り合いらしいし。


「これ以上何も無いならそろそろ失礼するぞ。調べないといけないこともあるしな」


「調べないといけないこと?」


 考え込んでいたギルドマスターは俺の言葉を聞いて?マークを頭に浮かべる。しまった、気が抜けてつい口が滑った。適当に誤魔化したいところではあるけど、この人に嘘が通じるのだろうか。


「虹色のスキルの事、話しても大丈夫なんです?」


 アールヴが少し不安そうな顔で俺に耳打ちする。

 普通に考えるとあまりペラペラと喋らない方がいいに決まってはいるんだが、いかんせん全くと言っていいほど手がかりが無い今、この人を信頼するのも一つの方法ではある。


「なぁに? 一杯迷惑もかけたし、私でできることなら何でも協力するわよ?」


 ギルドマスターは俺にニッコリ笑いながら話しかける。


「私は、この人になら話しても良いと思うんです」


 なおもこそこそとアールヴが耳打ちしてくる。


「そう思う理由は?」


 俺もアールヴへ耳打ちで返す。

 すると、彼女は親指を立てて頷いた。


「女の直感です」


 あ、これダメなやつだわ。こいつ特有の考えなしのやつだわ。何気にギルドマスターパクってるし。

 俺は、やはり適当に誤魔化すべきだという方向性で決断する。

 しかし、何故か言葉が喉で突っかかった。

 頭をよぎったんだ。リーゼベト王国の学者たちが総出で調べても分からなかったことを、俺自身が独力でどこまで調べられるのか。それならばリスクを冒してでもギルドマスターに賭けた方が早く答えに辿り着くことができるのではないのか……と。

 癪だが、聖獣の一件では、クソ猪を殺そうとした俺を止めたアールヴが結果的に正しかった。癪だが。すごく癪だがな。

 だから、騙されたと思ってこいつの直感を信じてみるか……。


「一つ聞きたいことがある……」


「なぁに?」


「スキルクリスタルが虹色の光を放ってスキルを授ける、という現象を聞いたことがあるか?」


 この言い方なら俺がそれを持っているとは悟られまい。


「虹色の光ねぇ……。そのスキルをあなたが持ってるってこと?」


「ふぇっ!?」


 喉の奥から変な声が漏れた。あっ、やべえっ。


「あらあら。クールを装ってるけど、案外ロクス君もこういう駆け引きはまだまだみたいね。でもそういう可愛いところがあっても私は良いと思うわよ」


 ウフフとギルドマスターは笑う。何だか負けたような気がして悔しさが込み上げてきた。


「そうね、結論から言うと私は知らないわ。でも、それを知っているかも知れない人なら知っているってところかしら」


「知っているかもしれない人?」


「そう」


 ギルドマスターは俺の問いかけに返答し、スクッと立ち上がったかと思うと、応接室の一角から大きな地図を取り出してきた。

 それを応接机の上に広げる。


「ここが今いるヨーゲン。そこから王都を超えて、更に東へ行った先に、山々に囲まれた湖があるわ」


 ギルドマスターは俺たちへ語りかけるとともに、指で地図をなぞりだした。

 それを俺は目で追いかけていく。


「その湖の中央に浮かぶ島に大きな屋敷があって、そこには俗世から全てのかかわりを絶って暮らす1人の女性が居るの」


「その人がもしかしたら知っているかも知れない人なのか?」


「ええ、そうよ。ただ、彼女の素性は一切不明で、分かっているのは彼女の通り名とおおよその年齢だけ」


 そして、ギルドマスターはゴクリと生唾を飲み込んだ。


「『魔眼の吸血鬼(イービルヴァンパイア)』。齢400歳の化物よ」


「魔眼の吸血鬼……」


「噂では、この世の全てを見通す魔眼の持ち主で、全てを見通せるが故に知らないことが無いと言われているの。だから、この人ならあなたの言う虹色のスキルについても何か知っているかもしれないわ」


 なるほど。この世の全てを見通し、全てを知るものか。確かにそれぐらいの奴であればこのスキルが一体何なのかを知っているかもしれない。


「ただ、さっきも言った通り素性が一切不明だから、正直協力を仰げるかどうかは分からないわ」


「殺されるかもしれないと言うことか?」


「最悪は」


 応接室が沈黙に包まれる。虹色のスキルの情報を手に入れるのがここまでハイリスクだとはな。


「でも、行かないと前に進めないなら、行くしかないだろ」


 そうだ、今はこれしか手がかりが無い以上、これにすがる他は無いんだ。

 そうしないと、俺はいつまで経ってもこれ以上強くなることは無いんだから。


「ロクスが行くなら私も行きます」


「いや、俺一人でいいけど」


「えっ!?」


 何で? といった顔でアールヴが俺を見る。


「いやだって死ぬかもしれないって言われているところだぞ? お前がわざわざ危険を冒して付いてくる必要はないんじゃないか?」


「そうかもしれませんが……、私はロクスと一緒に居たいんです。それとも私は邪魔ですか……?」


 アールヴが上目遣いで尋ねてくる。

 なまじ顔が整ってる分、その聞き方ははっきり言ってズルい。正直面倒くさいことばっかりするから邪魔だと思ってるけど、うんって言えないだろ。


「好きにしたらいいんじゃないか?」


 ぶっきらぼうな物言いだけれど、了承の意味だ。言っとくけど渋々だからな。俺は男に生まれたことを恨むぞ。


「ありがとう、ロクス。それと、さっき私の身を案じてくれたこと、すごく嬉しかったですよ」


 そう言うと、アールヴはテヘッと笑った。ええい、うるさいうるさいうるさい。

 こうして、俺とアールヴは次の目的地を『魔眼の吸血鬼』が住むとされるアイリス湖へ決めたのだった。






「ねぇ、ウリンちゃん。私たち置いてけぼりね」


 ピギィ。

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