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幕間 瓦礫の町を駆る三影

「これで良かったんですか? 大将」


 インステッド王国首都グレナデより西方。

 旧ユーレシュ王国のとある町の一角で、茶髪の男が訝しそうな表情を浮かべて尋ねた。

 その言葉を受けた眼鏡の男は軽く笑みを浮かべると「ああ」と一言だけ告げる。


「ギルバードさんはいいですよ。私なんてあの気持ち悪い男に付きまとわれて大変だったんですから。今思い出しても寒気がする」


 一緒に横を歩く女性が、両手で肩を抱き震える仕草をした。


「寒気がするのはここがノースラメドに近いからだろ、リヴィアン」


 ギルバードと呼ばれた男が呆れたような様子で、その女性にため息交じりでそう告げる。


「ほんと、ギルバードさんはいいですよね。わざと負けることが分かっていたとはいえ、一緒に戦うことができたんですから」


「あのな。戦ってみて分かったけれど、そこそこの手練れだぞ、あいつら。俺だから何とかなったが、三席とはいえ、お前の力量じゃわざと負けるどころか、本気でも勝てたかどうか怪しいレベルだ」


 ギルバードがそう言った瞬間、リヴィアンの顔は冷徹なものになり、キッと発言の主を睨みつけた。


「へぇー、言ってくれますね。まぁ、自分の力を過信し過ぎて、そのたかが三席に足元をすくわれないよう精々気を付けてください」


「あぁ? やれるもんならやってみろよ。ちょうど力が有り余ってたところだ。片腕一本くらいは覚悟しろよな」


「やめないか」


 ギルバードとリヴィアンが一触即発のムードのなか、眼鏡の男は「やれやれ」と言いながら二人を制した。

 三人の間にしばらくの沈黙が流れる。

 どうにも黙ったままだと居心地が悪いのか、再びギルバードが口を開いた。


「しかし大将。折角の遠征で今回はさすがに消化不良というか、何というか。わざわざ大将自らが接触を試みるくらいに警戒している相手なのであれば、いっそのこと殺してしまえばよろしかったのでは?」


 しかし眼鏡の男はそのギルバードの問いに首を振った。


「今回は彼らの力量を測るためだ。大したものでなかったのなら殺してしまっても問題なかったが……、実力は想像以上だった。これでは殺してしまうのは勿体ない」


「じゃああの場でコレクションにしてしまえばよろしかったのではないですか?」


「まだ足りないんだよ。彼らは熟す前の果実と同じだからね。今は固く、まずくてとても食えたものではない。しっかりと成熟したその時こそ、私のコレクションに加わるにふさわしい」


 眼鏡の男は邪悪さの欠片もない、とても無邪気な笑みでそう答える。

 ギルバードには、逆にその笑顔と言葉の裏腹さがとても不気味なものとして映ったが、かぶりを振ってそれを一掃した。。


「まぁ、こちらのテリトリーにまで迎えるまでに、その成熟とやらをしていればいいんですがね」


「しているさ、きっとね」


 ギルバードのその言葉に、間髪を入れず眼鏡の男はそう答える。

 「きっと」という希望的観測な言葉を交えながらも、その声色はまるで確認を持っているかのようにギルバードには聞こえた。


「時に、今回の作戦では、わざと負けることで相手さんには俺たちが死んだことにするっていう算段だったはずなんですが、大将、あんたちゃっかり坊主に勝ちましたよね?」


「ん、何の話?」


「何の話? って、あっ、ちょっと、逃げないでくださいよ!」


「えー、全然聞こえなーい」


「こら、待ちやがれ! バークフェン・バレンシア!」


 耳を塞ぎながら逃亡を図る眼鏡の男の背を、一瞬遅れたギルバードが追いかける。


「ちょ、待ってください。ギルバードさん、バークフェン隊長!」


 その二人が数メートル先に走り去ったところで、リヴィアンはそう叫び、二人の背を追いかけた。

 その際に彼女が羽織っていたマントがめくれ上がり、裏地に刻まれた紋章が一瞬姿を見せる。

 リーゼベト七星隊、その第四番隊を意味するそれに気付く者は、かつてサンタミーシアと呼ばれたこの町には、誰一人として、存在していなかった。

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