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第十話 最初のクエスト


 朝食を食べ終えた俺たちは、ヨーゲンのギルドを訪れていた。

 ニナはギルドを訪れるのは初めてらしく、キョロキョロと辺りを見回している。

 ちなみに朝食の時に話を聞いたが、ニナはユーレシュの第一王女らしい。やっぱり世間から離れているとこういう場所は珍しいんだろうな。


「これ書いて出せば登録できるぞ」


 俺はニナが物珍しそうにギルドを見て回っているうちに、受付から申請用紙を貰い、ニナへ渡す。


「分かりました」


 ニナは二つ返事で申請用紙を受け取ると、近くにあった記載台でそれを書き始めた。


「ちなみに名前は偽名でも構わないから、とりあえず適当に書いとけ。身バレすると面倒くさいしな」


「なるほど。ちなみにラグナスはラグナスで登録してるんですか?」


「いや、俺は『ロクス』という名前で登録してるな」


「由来とかあるんです?」


「小さいころ読んだ本の著者から拝借した」

 

 確か、ロクス・マーヴェリックという名前だった。


「あー、そういう感じで良いんですね。じゃあ私はこれで」


 そう言いながら彼女は登録用紙に『アールヴ』という名を記載した。

 確か、古代語で小さき精霊という意味だったか。


「意外と可愛い趣味」


「ほっといてください!」


 ニナは少し赤くなりながら、その用紙を受付まで持っていった。俺もその後についていく。

 受付で用紙を渡すと、簡単なチェックの後、白色の長方形のプレートが付いたペンダントがニナへ手渡された。


「これ、何ですか?」


「ギルドプレートだ。その色で自分が今どのランクかを示すものだから、必ず体のどこかに付けておくんだぞ」


 そう言って、俺は腰元にぶら下げている黄色のプレートを見せた。

 ちなみに白色がGランク、黄色がFランクを表している。


「これって、首から下げておかなくてもいいんですね」


「別に見えるところに付けておけばいいらしいぞ」


 な? と受付の人に同意を求めると、「はい、そうですね」と言って笑顔で頷いてくれた。

 だから、俺はペンダントの紐を切って外し、プレートの穴に短めのチェーンを通して、ズボンのベルトループに付けている。


「そうなんですね、良かったです。ちょっと、これを首から下げるっていうのは……」


「ダサいよな」


 ニナが言い淀んでいたので俺がその後を引き継ぐと、受付の人はアハハと苦笑いしていた。




「さて、じゃあ早速クエストを見に行くか」


「はい」


 俺はニナを連れて、ギルドの最奥。クエストが張り出されている掲示板を見に行く。


「んー、やっぱこの時間だから美味いクエストはないな」


 クエスト内容と報酬を一通り見て、やっぱりなと頭を掻いた。

 クエストは受注クエストと呼ばれるものと、発注クエストと呼ばれるものの2種類がある。

 前者は、ギルド主体で国や商人達から仕事を貰いに行っているものであり、難易度は千差万別だが報酬は難易度に見合っているものが多い。

 対して後者は、ギルドに対してクエストが依頼されたものであり、これも難易度は千差万別であるが、報酬が難易度に合っているとは限らない。簡単なクエストで報酬が高い場合もあれば、その逆もまたしかりだ。

 この2種類のクエストのうち、新規のものは朝一番で張り出される。そしてクエストを受けるのは早いもの勝ち。そうなると、当然ながら発注クエストのうち難易度に比して報酬が低いものが残る。今ざっと見ただけでも、多分ほとんどが塩漬けになっているようなものばかりだろう。


「また、明日出直すか?」


 俺がニナへ尋ねると、ニナはブンブンと首を横に振って一枚のクエスト紙を指差した。


「これを受けましょう」


+++++++++++++++++++++++


【緊急クエスト】


推奨ランク:C


依頼人:アルニ村村長

依頼内容:大猪1体の討伐

報酬:15万エール

一言:毎日のように村の作物が荒らされ、

   このままでは飢死してしまいます。

   どうかお助けください。


+++++++++++++++++++++++


 よりによって俺が一番無いと思ったやつを選んだな。


「一応聞く。どうしてこれなんだ」


「緊急とあります。このままではこの村の方々が死んでしまうかもしれないのですよ? 放っておける訳がないでしょう」


「そうか。とりあえずこのクエストの意味を説明するぞ」


 ギルドのランクでCが意味するのは『上級』だ。つまり、相当の手練れでないと相手にならないということに他ならない。

 そしてCランクを依頼するにあたっての相場は、最低200万エールと言われている。今回の報酬はそれの10分の1以下だ。

 はっきり言ってしまって、これはゴミクエスト。


「ということだ」 


「そうですか。それがどうしたと言うんです?」


 ニナは少し怒気をはらんだ口調でそう言うと、キッと俺を睨んだ。


「誰もやらなければこの方々がどうなるかは、容易に想像ができるじゃないですか」


「そりゃあ、まあ、良い結末にはならないだろうな」


 餓死するのを待つか、はたまた村人全員で躍起になって大猪に挑んで返り討ちにあうか。

 仮に勝てたとしても推奨ランクCだ。被害はかなりのものになるだろう。


「それが分かっているのであれば答えは一つでしょう? あなたが来てくれなくとも私は行きます」


 ニナはそう強く告げると、掲示板に張っていたそのクエスト紙を剥がした。受付に持って行ってクエストを受けるためだろう。

 やれやれと俺はため息をついた。7年前だったら、神の申し子と呼ばれていた俺のままだったなら、こんな真っすぐな考えが俺もできたのかな。


「レベル21のくせして、生意気なこと言ってんじゃねえよ」


 そう言って俺はニナからクエスト紙を奪い取った。


「これは俺が受ける。報酬はともかくとして、レベルアップには最適だろうからな」


 幸いなことに敵は1体のみだ。天下無双のスキルを使えばどうということはないだろう。

 恐らくニナも、俺の力を知ってるからこそこのクエストを選んだんだろうなと思うしな。

 クエスト紙を奪い取られたニナは一瞬呆気に取られた顔をしていたけれど、すぐに笑顔になり、駆け足で俺の後をついてきた。


「レベル1に言われたくありませんね」


 そんな軽口を彼女がたたく。


「うるせ。俺は元々レベル52だ」


 だから俺も、負けじと笑顔でそう返してやった。

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