第3話 涅槃
【注】この物語はフィクションです。
日本の歴史にこのような事実は決してありません。
バカな作者の妄想として読み流してください。
今は昔。都が飛鳥にあったころ。
ヤマトには八百万の神がいた。
しかし百済から仏教が伝わると、仏教徒たちはヤマトの習わしを弾圧していった。
…これはそんな仏教徒たちに闘いを挑んだ人々の物語である。
飛鳥の向原寺。
ここに仏教徒の大僧正 法円がいた。
瞑想を行なう法円。
そこに部下の僧が耳打ちすると、彼は顔を曇らせる。
「四天たちがやられただとッ!! 神使いめ、目にもの見せてくれるッ!!」
そして部下に叫んだ。
「涅槃ッ!! 涅槃を呼べッ!!」
ここは再び下毛野の国河内郡の小さな村。
村からは見えない森の中に、裳付衣姿の僧が1人立っていた。
手を合わせ小さな声で誦経していたが、ふと目を開くとつぶやく。
「四天たちの感情の残滓が…彷徨っておる… 悔しかろう… ワシが、おまえたちの魂…救ってやろう…」
畑で働く少年。
木の棒に平たい石を付けた道具で、畑をならす。
疲れを癒すために一息入れているときだった。
「アオバ!」
村人の1人が呼んでいる。
「アオバ! 来てくれ! たまもり様が!」
少年は急いで、村の長のところに走った。
そこにたまもり様、ヒメナがいたからだ。
住居に入ると、ヒメナが村人に抱えられていた。
少年は近づくと、呼びかけた。
「たまもり様!」
少女は少年をギロリと睨みつけるとこの世のものとは思えない声を出した。
「貴様ら… 御仏の心を踏みにじり、邪教を信仰する不埒なヤツら… しかし慈悲深き御仏は、貴様らのことをお許しになるだろう… 悔い改めよ… 懺悔せよ… そして仏に帰依せよ… 遅くはない…」
少年の顔は青くなった。
「たまもり様ッ!!」
「愚か者ども… 悔い改めよ…」
「ヒメナ!!」
「仏こそ…すべて…」
そこまでいうと少女は気を失った。
少年は狼狽するばかり。
村人がいう。
「仏教徒が、たまもり様に何かしたのだろうか…」
村の長がいう。
「そうであろう… たまもり様がこんなことをいうはずがない」
少年がいった。
「オレ、神使い様にいわれているんだ。何かあったら、これを…」
少年は服の下から何かを出した。
手に持っているのは、文字の書いている紙片である。
「…これを火に燃やして天に放てって」
少年は村の大きな石の前で火を焚き、紙片を燃やした。
煙が天に昇っていく…
それから、2日ほどたった頃、村に続く道に男が現れた。
イズミである。
村人から知らせを受けた少年は、イズミを走って迎えた。
「神使い様! ヒメナが! たまもり様が!」
「なにがあった?」
村の長の住居に入ったイズミは、少年から話を聞いた。
「なるほど、仏教徒の魂が取り付いているのだな…」
イズミは少女の前に立つ。
少女の頭を手でつかむと、
「祓給清給」
イズミの手が光り、少女の頭が光に包まれる。
しかし少女は目を覚まさない。
イズミはもう一度少女の頭をつかんだ。
すると少女が声を出した。
「くくく…来たな、神使い…」
イズミがいう。
「貴様、何者だ?」
「ワシは涅槃… 仏教徒よ… こいつの魂はワシの思うがまま…」
少年がたまらず叫ぶ。
「ヒメナ!」
「貴様に倒されし四天の仇… 取らせてもらおう…」
少女はカッと目を見開くと、手をイズミに向け、叫ぶ。
「南無阿弥陀仏!」
手から光が飛びイズミに向かう。
「祓給清給!」
イズミがいうと、光の玉は弾け消える。
「南無阿弥陀仏!」
再び少女の手から光が、イズミに向かう。
「祓給清給!」
イズミが光の玉は弾けとばす。
じりじりと見つめあう少女とイズミ。
「どうした? 神使い? ワシを攻撃せんのか?」
少年がいう。
「神使い様…」
イズミが悔しそうにいう。
「攻撃の術は使えない…」
少女がいった。
「そうであろうな! ハハハ! 神使い! 手も足も出まい!」
村の長が村人に叫ぶ。
「ヒメナを取り押さえよ!」
村人たちが少女に向かう。
少女は向かってくる村人に手のひらを向けた。
「いいのか? 灰になりたいのか?」
イズミがいう。
「下がって!」
手をかざしながら、じりじりと住居の入口に向かう少女。
たどり着くと、
「神使い! さらばだ!」
森の中に消えていく。
イズミはそのあとを追った。
森に入ると、光の玉が襲い掛かってきた。
「祓給清給!」
光の玉は弾け消える。
イズミの前に姿を現したのは、3人の僧。
滅貪、滅瞋、滅痴である。
「涅槃様のところには行かせぬ!」
「仏教徒ども! 恥を知れ!」
「邪教のものが恥を語るなど笑止!」
「南無阿弥陀仏!」
3人がイズミに向けて光の玉を放つ。
イズミは天に跳んで避けた。
そこに笑い声。
「ハハハハ! 神使い、苦戦しているようだのう!」
「涅槃!」
気絶した少女をわきに抱えた涅槃が木の上からイズミを見ている。
「この娘は用済みだ! 返すぞ!」
少女をイズミの放り投げる。
イズミは少女を受け止める。
「ハハハハ! 神使い! さらばだ!」
「待て!」
「南無阿弥陀仏!」
僧たちが追うイズミに光の玉を打つ。
「祓給清給!」
光の玉が消えると、仏教徒たちは姿を消していた。
イズミは少女を村に抱えて戻った。
村の長の住居に寝かせる。
少女は眠ったままだった。
少年が心配していった。
「たまもり様は…」
イズミが答える。
「大丈夫…しばらく様子を見よう…」
夜が来た。
皆が寝静まった深夜、とこから起き出すものが動く。
人影は村の住居を通り抜け、大きな石の前に立つ。
そして、しめ縄に手を掛けた。
「やはり…貴様か…涅槃!」
人影は少女。
声をかけたのはイズミである。
ニヤリと笑う。
「フフフ、バレていたか。神使い!」
「たまもり様を返す理由が見つからなかったからな」
「しかし、もう遅い…」
少女はしめ縄を切る。
「今度は貴様らが死ぬ番よ!」
大きな石に震えが走る。
振動はしだいに大きくなり、地面ごと震えだす。
「ハハハハ! 死ね! 邪教徒は皆死ね!」
イズミがいう。
「愚かなり、涅槃! 我々がただ貴様を見過ごすと思ったか?」
「なんだとッ!」
イズミが叫んだ。
「アオバ!」
少年が少女に走る。
「何を!」
少年は少女を抱きしめる。
「お願いだ、ヒメナ! 正気を戻してくれ!」
少年は少女に接吻する。
そして少年が口に含んだ水、イズミが祈祷をした水を、少女に飲ませる。
「こ、これは!」
涅槃の魂は、少女から抜け出す。
少女はぐったりと倒れる。
その首に少年はしめ縄を巻いた。
「涅槃! くらえ!」
そしてイズミは叫んだ。
「祓給清給!」
イズミの手から光の玉が出て、涅槃の魂に向かう。
「神使い! 貴様!」
光が涅槃の魂を包む。
「祓給清給!」
「ぐわあああッ!」
光が収束し、涅槃の魂は消える。
「ヒメナ! ヒメナ!」
少年は少女を揺さぶる。
「たまもり様!」
はっと目を覚ます少女。
「たまもり様! しめ縄を!」
少年からしめ縄を受け取ると、少女は石にそれを掛けた。
石の震えはゆっくりと止まり、静けさが戻る。
少女がいった。
「いったい、なにが…あったの?」
少年は笑って答えた。
「なにも!」
そしてイズミは再び旅立って行った。
人々を仏教徒から守るために…




