レジスタンスその3
「……じゃあ本当にラクリエ様とは何の関係もないのか?」
ゲオルグが落ち着くまで待ってから二人は、彼にそのように告げた。
「はい、残念ですが……。そもそも僕たちはガルミキュラ人ですし」
「そうか……そうだよな……。いかに似ていると言ってももう二〇年も前の話、相応に年をとってなきゃおかしいわな……」
(普通はそうだよね……)
しかしセネトたちが母と呼ぶ四人の女性は、どういう訳だか全然年をとっているようには見えないのだ。一人は長寿で知られる耳長族だから分かるとして、他の三人は子供たちに妖怪と揶揄される程若かった。セリカが髪を短くしたのも、元はラクリエと間違えられるのを嫌っての事だし、レンとイハサが二人で外出でもしようものなら、イハサの方が妹に間違えられるほどだ。本人たちは眷属だから、なんて言ってはいるが怪しいものである。
「しかし本当に似てるな、娘だと主張されたらまず疑う奴はいねえだろう。王女の顔を知っている奴なら尚更」
そこまで言った所で、ゲオルグはふとある事を思いつく。
「そうだ嬢ちゃん、俺たちの旗印になってくれ」
「旗印……?」
「俺たちレジスタンスには未だにハーノイン王家を崇拝してる奴が多い。俺も含めてな。だから嬢ちゃんにはラクリエ王女の本当の娘としてレジスタンスに加わってもらいたいんだ。二〇年前に行方不明になったラクリエ王女、その遺児が発見されレジスタンスに加わったとなれば、帝国の圧政に苦しむ連中やハーノイン王家を懐かしみながらも再建を諦めていた連中がどんどん集まってくるだろう。そうしたらレジスタンスは一気に大勢力になる。この土地から帝国軍を追い出す事だってできるかもしれない」
「……なるほど」
ハーノイン王家の血脈は断たれたというのが世間の認識だ。だがそこに行方不明になったラクリエ王女が秘かに血を繋いでいた事が判明したら、その遺児が当時のラクリエと瓜二つの容姿を持っていたら、国民は歓喜してみなセリカの為に戦うだろう。それこそ自らの命すら厭わずに。
(いや待て、それってどうなんだ? 僕たちは正体を隠すために無関係を装った。だけどゲオルグさんは、本物のふりをしてレジスタンスに参加しろと言う。それって本末転倒なんじゃ……?)
正体を隠した意味が一切なくなってしまう。レジスタンスの一員とその旗印とでは敵にとっての重要性がまるで違う。それこそレジスタンスが完全勝利するまで延々狙われ続ける事になる。セリカを守りたいのであれば、こんな提案に乗るなど言語道断であった。だが……、
「……分かりました。その話、お受けします」
セネトに相談する事もなく、セリカが勝手に返事をしてしまう。
「セリカ、何を言って……」
「ごめんね、でももう決めたの。ほんの数ヶ月のだったけど、それでもこの国の現状は十分分かった。私が旗印になることで少しでもこの国の人々が救われるなら、私は力を貸してあげたい」
「セリカがそういうなら……」
確かに危険なのだろう。だがそれでもセリカの決意は固い。そもそもこれはセリカの問題でもある。ならば今セネトがすべきことは、セリカの決断に反対するのではなく協力することである。そう判断した。
「そうか、ありがとう。……ところでさっきから気になってたんだが、そっちの兄ちゃんとはどんな関係なんだ?」
ゲオルグが不意にそんな事を聞いてきた。
「ええと彼は……」
「はい、セリカさんとは真剣にお付き合いをさせて貰っています」
どう答えるべきか迷っていたセリカを後目に、今度はセネトが勝手に答えてしまう。
「そ、そうなんです。頭が良くて凄く頼りになるんですよ」
セネトの意図は分からないが、頼りにしているのは事実である。なのでとりあえずこの場はセネトに話を合わせた。
「そうか、まあそうだよな。王女に似ている事をナシにしても、嬢ちゃんは凄え美人だし、周りの男が放っておく訳ねえか。お似合いのカップルだぜ」
「あ、ありがとうございます」
「だがまあそうだな、最初から男がいた方が、変な気を起こす連中も減るだろうし堂々と二人で行動できる。了解したぜ」
(なるほど……)
こうなる事が分かっていたからセネトは恋人と名乗ったのだろう。レンは強くて楽観的な性格が頼りになる一方、セネトは常に二手三手先を読んで行動することができる。武力のレンと知力のセネト。セリカはそういった面で二人を頼りにしていた。
「よしじゃあ早速だが、今から嬢ちゃんの偽の経歴を作っていくぞ。経歴が固まったら改めて俺たちのリーダーに紹介しに行く。分かってるとは思うが、嬢ちゃんがラクリエ王女と何の関係もない事を知っているのは、今この場にいる連中だけだ。絶対に漏らすんじゃねえぞ?」
ゲオルグの言葉に、アイシャを含めたこの場の団員は静かに強く頷くのであった。




