セネトとセリカその2
夜、宿泊費をケチって野宿をしたセリカとセネトは、町の外で適当に薪を集めて火をおこし、二人寄り添って暖をとった。いきなり帰国を拒否されたのもそうだが、ムードメーカーだったレンが抜けたことで、余計に気持ちが重くなる。
「これからどうなるのかな、私たち……」
ぼそりとセリカが呟いた。
「分からない……でもきっと何とかなるさ、あんまり考え込むな」
曲がりなりにも二人には教養があり、レンほどではないにせよ戦う術にも長けている。お金を稼ぐ手段には困らないだろう。
「あのね兄さん、少し聞いて欲しい事があるんだけど……」
「珍しいね。いいよ、話してごらん」
「うん……、あのね兄さん、ワルキューレって知ってるよね?」
「うん、もちろん」
ワルキューレ。女性のみで構成されたガルミキュラ国王の私兵の事である。リーダーの類が存在せず、実質メンバーの一人一人が王直属の部下。仕事内容もバラバラで、軍人もいれば潜入捜査を主としている者もいる。横の繋がりは皆無に等しく、ワルキューレ本人であってもその総数やメンバーを正確に把握している者はいないという。
「誰にも話したことなかったけど、私ね、受けた事があるんだ。ワルキューレの採用試験」
「え、そうだったの?」
「うん、でも落とされちゃった。他の誰でもない、パパ自身に」
「……って事は父さんとの面接までは行けたのか、凄いじゃないか」
しかしセリカはその言葉が気に入らなかったのか、セネトに向き直って睨みつける。
「全然凄くない! 姉さんは試験なしの特別採用だよ!? そしてそれを決めたのはパパ。……ずっと思ってたんだ、姉さんはパパに気に入られてるけど、私はそうでもないんじゃないかって」
「……そうかな?」
「だってそう思わない? 姉さんはあれが欲しいこれして欲しいって結構パパに言ってるけど、たいてい叶ってる。でも私は……」
「……なにもしてもらった事がない?」
「……うん」
「セリカ、それは違うよ。セリカはそもそも、父さんに対してしてほしい事を、何も言った事がないじゃないか。それじゃあ父さんだって何もしてあげられないと思うよ」
「えっ……?」
言われてセリカははっとする。レンが何でもして貰えているのは、レンが気に入られているから。自分が同じ事を言ったら王の不興を買ってますます嫌われてしまうと、そう思っていた。だがセネトはそれを否定する。因果関係が逆なのだと。そしてセネトの言葉に反論しようとしても、反論できるようなエピソードが思い出せない。
「でも、私はワルキューレになれなかった」
「う~~ん、それなんだけど、そもそも父さんがどんな基準で採用してるのかすらよく分かってない。ただ僕の知る限り、レンも引退した人も含めてメンタルが強いと言うかマイペースと言うか……、そんな傾向がある気はする」
「マイペース……」
ガルミキュラ国王による面接は、採用試験の最後に行われる。面接官は国王ただ一人であり、成否を決めるのも国王である。その採用基準は国王以外の誰も知らない。そんな状況だから〝国王はワルキューレを自分の好みで選んでいる〟なんて噂がたっても何の不思議もないのだが、国民の王に対する信頼は厚く、そのような噂は一切聞こえて来ない。
「一つだけ確実に言える事は、父さんは仕事に私情を持ち込むような人じゃない。レンを採用したのだって、レンならワルキューレの厳しい任務をこなせるだけの能力と精神力があると、そう判断したって事なんじゃないかな?」
「そう……なのかな?」
「そうだと思うよ。ただ……そうだな、〝欲しいモノは自分で手に入れろ〟って、昔父さんに言われた事がある。それが世の中の仕組みなんだって。そういう意味で父さんの言葉を体現しているようなレンが父さんに気に入られてる可能性は否定しないけどね」
しかしそれを聞いたセリカは眉間に皺を寄せて再びセネトの方を見た。
「何それ、結局振り出しに戻ってるじゃん」
「い、いや、別に嫌われてるわけじゃないって言いたかっただけで、それを言うなら僕だって……」
「もう……」
ともあれ言い方はともかく言いたい事は伝わっていたのだろう。セリカは拗ねたように口をとがらせるが、すぐにいつもの調子に戻り、セネトに寄りかかった。
「明日から仕事探さないとね……、大丈夫かな?」
「帝国の教育水準は低い、大丈夫だよ。あ、でも如何わしい仕事は駄目だからね? そんな事になったら冗談抜きで母さん達に殺される」
「分かってるよそんな事。これでも王女なんだから」
「これでも、って……」
レンがいうならまだ分かる。いかに強かろうと彼女も一応王女なのだ。だがセリカは違う。母親譲りの端正な容姿に加えて、武術も学問も優秀だった。……どちらも優秀の域を出るものではなかったが、おそらく世間一般で言う所の王女のイメージに最も近いのではなかろうか。
「まあ案ずるより産むが易しってね、明日の事は明日考えよう」
「……うん」
その後二人は焚き火を消すと、そのまま就寝する事にした。セリカと肩を寄せ合って床に付くセネトだったが、ふとそこである事に気付く。
(そういえば、セリカと二人きりになるのって初めてなんじゃ……)
今までセリカの側にはずっとレンがいた。一時的に二人になる事はあっても、二人寄り添って寝るなんて経験は初めての事だ。
セネトは知っている。セリカは普段強気に振る舞ってはいるが、それはレンの真似をしているだけ。本質的には臆病な性格なのだ。実際強気に振る舞う事で自分を守ってきた側面もあるのだが、だからこそレンが消えた今となっては不安で仕方がないのだろう。
「大丈夫、この先何があっても兄ちゃんが守ってやるからな」
セネトは自分以外の誰にも聞こえないような声で囁くと、セリカの肩をそっと抱き寄せたのだった。




