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グリント街道の戦いその1

 更に二ヶ月が過ぎた。ゾンビ兵の働きにより徐々に追い詰められつつあったハーノインはこの日、王都シトラスに迫ったミッドランドの大軍と最後の戦いを繰り広げようとしていた。

 時を同じくしてレシエ連合は、二万の大軍を率いてハーノイン西部に侵攻。ユベルの谷と呼ばれる場所に陣を敷いた。連合のこの行動は、すぐに王都シトラスにいるミッドランド軍の知る所となったが、王都攻略に全力で当たっていたミッドランドは何ら有効な手を打つ事が出来なかった。


「また思い切った行動に出たなゼアル。てっきり戦は嫌いなんだと思っていたが……」


 ユベルの谷の連合軍陣地、そのテントの中で、ガイルがどこかおちょくる様に言った。


「そういう取引をハーノインと交わした。現にザイートを始め、各町や村はほぼ素通りだったろう」

「思い切っていたのはハーノインだったってオチか。まあ楽してこの広大な土地が手に入るなら悪い話じゃないのは確かだな」

「そうだな、このまま何もせずに諦めてくれたら楽なんだが……」


 連合の行動。下準備、進攻開始のタイミング、全ては完璧だった。そして今現在彼らが行っているのは、ユベルの谷に長城を築き、谷を完全に封鎖してしまう事。その為に、ユートリア候国で橋の再建を行った技術集団をここに呼んで働かせている。


「そう上手くいくか?」

「行かないだろうな。だからと言って、先にハーノインを叩かなければこちらに全力で当たる事も出来ない。つまり王都シトラスがどれだけ持ち堪えられるか、全てはそこに賭かっている」


 ゼアルの言葉に、やれやれとガイルは肩をすくめた。


「らしくねぇな、他力本願な作戦なんてよ」

「そうかもしれん。だがハーノインは持ち堪えるだろう。その為にわざわざ五万を超える市民を西部に疎開させたのだからな。疎開民の中には当然兵士の家族もいるだろう。彼らの為にも、兵士たちは全力で持ち堪える筈だ」

「……そうか」


 使えるものは何でも使う。それが戦の慣わしとはいえ、守るためにシトラスに残った兵士たちの事を考えると、ガイルは複雑な気持ちになるのだった。



 ミッドランドの南にある城、ダーナ。ハーノインとも近しい場所にあるこの城は、今度の戦争でも前線基地ないし中継場所として利用されてきた。そのダーナに今、一人の伝令の男が参じる。


「ドイル様、大変です。西の連合が二万の大軍を率いてハーノイン西部を制圧。ユベルの谷とグリント街道を封鎖しました。また未確認の情報によると、連合軍はユベルの谷を物理的に封鎖するためのなんらかの工事を行っているとのことです」

「何だと? お前は何を言っている? ほんの十数日前まで連合のレの字もなかった。それがたったそれだけの時間でハーノイン西部を制圧したと、そう言っているのか?」


 ダーナ城城主ドイルが驚くのも無理はない。狙っても狙いきれないような見事なタイミング、そして進行速度。普通に考えたらその倍はかかるだろう。


「連合がどのような手段を用いたのかは不明ですが、たった今報告に上げたことは全て事実です。ドイル様、どうかご決断を」

「ぐぬぬ……」


 本来なら本国に指示を仰ぐべきなのだろうが、工事の件が事実なら、本国に使いを送っている間にも工事が進んでしまう。それよりも今すぐダーナ城に残っている全戦力で連合の陣地に攻撃を仕掛ければ、上手くすれば工事を妨害できるかもしれない。


「将軍、今の城内の戦力はどれくらいだ?」

「ざっと四千と言った所でしょうか。道中の村々から徴兵すれば更に千人ほど集まるでしょう」

「連合の二万に対してこちらは五千か……。しかし敵が二ヶ所に展開している以上、直接戦う連合軍はもっと少ない」


 ちょうど半分に別れていたとして、それでも街道側の連合軍は一万。野戦であればまず覆しようもない戦力差。

 ただでさえドイルは、三年前に二千の兵を失っている。敗色濃厚な作戦に部下を駆り出すのは本意ではなかった。


「何をまごついている親父、火事場泥棒なんかにいいようにされて恥ずかしくないのか」


 そう言ってドイルに意見したのは、彼の一人息子であるホームズである。


「しかしなホームズ、我らはつい三年前にも大勢の兵を失った。奴らの目的はあくまでハーノイン西部の支配権を得る事。我らが何もしなければ連合も仕掛けては来ないだろう。今はこのまま傍観した方が我らの為なのだ」

「情けないぞ親父! そんな事だから王子に付け込まれたんだ。親父がもっと強く抗議していれば……」


 しかしその言葉が逆鱗に触れたのか、瞬間ドイルの眉間に皺が寄った。


「その話しはするな、ホームズ。抗議はした、だが証拠がなかった。王子がダーナの兵二千に対して何かをしたという証拠がな。そういう事で決着した。その決定に異を唱えるというのであればホームズ、貴様を国家反逆罪で逮捕せねばならなくなる」

「チッ、まあいい、親父がやらないなら俺がやる。連合なんかに舐められてたまるか」


 吐き捨てるように言うと、ホームズは踵を返して兵達に向き直る。


「戦の準備をしろ! 臆病者以外は俺についてこい!」


 ホームズが発破をかけるも、ドイルとホームズ板挟みに戸惑う兵達の反応は鈍い。それでも消極的ながら、次第にホームズに従っていくのだった。


「お前も行け、アラン将軍」

「ドイル様? しかし……」

「あんな男でも次期城主だ、死なせる訳にはいかん。万が一のときは……分かっているな?」

「はっ、ではわたくしめもホームズ様に従い出陣致します」

「うむ、任せた」


 程無くして戦の準備を終えたホームズら四千の兵は、アランの指示通り領民を徴兵しながら南下。現在ミッドランド領となっているバロック砦を通過してグリント街道に迫った。

 グリント街道を封鎖する連合軍一万二千とダーナ城城主の息子ホームズ率いる五千の戦い。レシエ連合とミッドランドが戦端を開いた戦いとして、後にグリント街道の戦いと呼ばれる事になる一戦が始まろうとしていた。

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