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イハサの山賊退治その2

 やがてゼアル達は、店の奥の小部屋に案内された。ゼアルとイハサは普通だが、戦う術を持たないラクリエはやはり不安なのだろう。ゼアルに体を密着させて必要以上に警戒している。


「まずは自己紹介からさせてもらう。うちはエマ、連中のリーダーをやってる。こちらの申し出に応じてくれてありがとう。うちが戦力を集めている理由は他でもない、最近この辺りを荒らし回っている山賊、その討伐が目的だ。そして可能であれば君たちにもそれに協力してほしいと思っている」

「山賊……だと?」

「そう、時期的に山賊の正体は元ベルガナ兵、その残党だと思う。そんな連中が徒党を組んで近隣の村々を襲ってるんだ。助けない訳にはいかない」

「ハーノインの軍隊は助けてくれないのですか?」


 イハサがそう質問する。


「今ハーノインはミッドランドとの戦争で、山賊討伐に兵を割いてる余裕なんてないのさ」

「う~~ん……、では山賊の正体が元ベルガナ兵だというのは確かなのでしょうか? 戦後捕虜はすぐに開放され、多くの者はベルガナに、一部の者はユートリア正規軍となったと聞いていますが……」

「その質問には我が答えよう。察するに彼らの正体は敗残兵ではなく逃亡兵だ。ベルガナの軍法では敵前逃亡をした者には重い罰が下される。彼らはそれを恐れて国には戻らずに、徒党を組んで山賊になったのだろう」

「ふむ、そうですか」


 ベルガナは滅んでいない。故にまともな兵は国に帰っているはずで、こんな場所に敗残兵などいない事を当事者であるゼアルはよく分かっている。


「随分詳しいんだな、正直その辺の事情はうちらも知らなかった。それならもしベルガナが滅んでいたら、山賊の規模もこんなものじゃなかったって事になるのか」

「そうです。ベルガナ戦争の英雄、連合盟主のゼアル様に感謝するのですよ」

「違いない。ぜひ一度会って直にお礼をしたいものだ」

(目の前にいるんだがな……)


 何故か唐突にゼアルを持ち上げ始めたイハサ。それが彼女のイタズラである事に気付いたのは、横目でゼアルの反応を見てほくそ笑む姿を見たからであった。


「それでどう? もちろん報酬も出すよ」

「……ちなみにですが、そのお金はどこから?」

「うちの親父はザイートの町長でね、義勇兵に払うくらいのお金ならある」

「話は分かりました。ゼ……ライルはどう思いますか?」

「そうだな……」


 ゼアルは顎に手を当てて逡巡する。イハサの反応からして参加したがっているように感じる。だが問題はここがまだハーノイン領だという点だ。

 イハサはガリュウに、自分たちが国境を越えた後に手紙を渡すようにと依頼した。ゼアル達の中にラクリエがいる事を知った国王が、ゼアル達を拘束する可能性があったからだ。

 だがこの件に参加し、国境手前で時間を消費していたら、追手がかかっていたとき間違いなく拘束されるだろう。それは絶対に避けねばならない。


「済まないが三人で話合いたい。少し外してもらえないだろうか」

「あ~、まあいきなりだし二つ返事って訳にもいかないか。分かった、うちらは少し消えるよ。いい返事を期待してる」


 エマはそう言うと、仲間を伴って部屋を後にした。その場にはゼアルとイハサ、そしてラクリエだけが残される。


「率直に聞くがイハサ、……参加したいのか?」

「もちろんです。ハーノインの民が山賊に苦しめられているのです。助けない理由はありません」


 やはりやる気らしい。


「だがもし追手がかかった時、呑気に山賊討伐なんてしていたらまず間違いなく捕まるぞ?」

「それは……」


 あっさり言葉を詰まらせるイハサ。はやり助けたいという気持ちだけが先行して、後の事は何も考えていなかったようだ。


「それでは他のみなさんを先に帰して、私たちだけで参加するというのはどうでしょうか? それならみんなと一緒に帰ったと思われて追ってもかからないのではないでしょうか?」

「あくまで参加するのであればそれが最善だろうな。だがその場合、我は参加できん。代表だけを残して使節団だけ帰国するなどそんなおかしな話はあるまい。何より内政干渉と取られかねない。それともう一つ。……ラクリエ、もしやお前も参加する気ではあるまいな?」

「えっ……? ダメですか?」


 やはりそのつもりだったらしい。やれやれとゼアルは頭を抱えた。


「遊びに行く訳じゃないんだぞ? 山賊とはいえ元ベルガナ兵。満足に戦えもしない者を同行させる余裕などないはずだ」

「ですが戦い以外でも力になれる事がきっとあるはずです。ザイートはハーノインの町。私が守るべき地なのです」


 珍しく食い下がるラクリエ。こうなると弱いのがゼアルだ。普段から眷族の意見や主張は極力取り込むように努めているゼアルだが、滅多にそれらをしないラクリエだからこそ(まれ)な主張を却下するのは気が引けた。


「ううむ、どうしたものか……」


 するとそこに、


「姫様、それは違います。裏方も重要な仕事ですが、それは姫様でなくてもできる事。あえて姫様がすることではありません。それより姫様には姫様にしかできない事でハーノインの民たちを助けてあげて下さい。わしはゼアルの部下であると共に、姫様の剣でもあるのです。だから姫様はただわしに命令してくれるだけでいい、それで十分なのです」


 ラクリエの身を案じているのはイハサも同じ。故にイハサもラクリエが山賊討伐に参加する事を良しとしなかった。


「イハサ……」


 ゼアルとイハサ、二人に反対されたことで、流石にラクリエも諦めざるを得なかったらしい。ふっと肩の力を抜いた。


「もし私がもっと強かったら、二人は反対した?」

「今回の件に関してなら反対はしなかっただろうな。だが事の本質は強さそのものではなく、無謀な行動に出ようとする行為そのものにある」

「……そう、ですか。……分かった、今回は諦める。だからイハサ、私の分までお願いね」

「はい、任せて下さい」


 イハサとラクリエが別行動をとる。何気にそれは、二人がゼアルに従うようになってから初めての事であった。

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