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魔王と剣聖

「ゼアル様、ユートリアの兵を名乗る者が謁見を求めていますがいかが致しましょう?」

「ユートリアの兵士が……?」


 ユートリア兵。ベルガナ戦争時、ガイルの下に付いて戦った元ベルガナ軍である。戦後ユートリア候国が興ると共に、彼らの多くはそこの正規軍となった。そんな彼がわざわざレシエまで訪ねてきたというのだから気にならないはずはない。


「分かった、会おう」

「了解しました」


 ゼアルは少しだけ思案するものの、すぐにそう結論を出す。警戒しなかった訳ではないが、可能性は低いと判断したのだ。

程なくして謁見の間に、ユートリアの兵を名乗る男が姿を現した。男はその場で跪き、口を開く。


「ゼアル様、お会いできて光栄にございます。私はユートリアの兵で、ベルガナ戦争ではずっとガイル様の下で戦っておりました」

「うむ、あの戦いではゼアルとその配下の兵に随分と助けられた。礼を言おう」


 しかし男は慌てて否定し、


「滅相もありません。我らを寛大に許し、ベルガナにとっても理想といえる形で終戦を迎える事が出来たのは、全てゼアル様のお陰である事は重々承知しております」

「そうか、それは何よりだ。……だが卿は礼が言いたくてここに来た訳ではあるまい」

「はい。しかしゼアル様、今この場でその話をするには、少々人が多いかと思うのですが……」


 つまり彼は遠回しに人払いをしろと言っているのだ。客観的に見ると図々しいが、その内容を何となく察しているゼアルは、


「ふむ、ではヴァルナとディルク以外の者は少し下がってほしい。卿はもっと前へ」


 特に気にした様子もなくあっさりとそれを受け入れた。

 それでもなおヴァルナとディルクの存在を気にする男に対し、


「この二人は我が特に信頼を寄せる者だ。心配はない」


 その言葉に、男はその場で再び膝を突いて話し始めた。


「ゼアル様は魔王ゼト様のご子息……そう考えて相違ないでしょうか?」

「……うむ」

「やはりそうでしたか。私は二十数年前のあの戦争当時より、魔王軍の一兵士として戦っておりました。捕虜となる前にも一度だけ、幼き日のゼアル様とお会いした事があります。あの幼い少年がこれ程立派になられて、再び私どもの前に現れてくれたなどと、これほどうれしい事はありません」

「やはりか、ベルガナ軍には当然卿のような者もいるであろうと思っていた。ところで見たところ、卿には角が生えていないようだが……」

「私共のように当時捕虜になっていた者はみな角を切り落とされているのです。どういう意図があったのかは分かりませんが、心を折る意味があったのかも知れません」

「そうだったか……」


 心を折る。その可能性もなくはないが、加工品か何かの目的で切り落とされたと考える方が自然かもしれない。

 ゼアルがそんな事を考えていると、男はより一層深く(こうべ)を垂れる。それを見たゼアルは、これから話す事こそが本題である事を察した。


「ゼアル様、無理を承知で申し上げます。どうかアルヴヘイムを解放してください。聞けばアルヴヘイムは未だミッドランドの占領下にあるとの事。これを解放することができるのは、亡きゼト様の血を唯一受け継ぐゼアル様以外にはありえないでしょう」


 アルヴヘイム。魔族の住む地であり、ゼアルの故郷であもる。だが先の戦争後、ミッドランドはアルヴヘイムに総督府を置き、圧政を敷いている。かくいうゼアル自身、二年ほど前までそこに住んでいたのだから。

 またアルヴヘイムがミッドランドの占領下にあるなら、アルヴヘイムを解放することでミッドランドの力を削ぐ事が出来る。労力を割くだけの価値は十分あった。しかし……、


「分かっている。あそこは我にとっても故郷。だがだからと言って、我がアルヴヘイムを解放するまでの期間、レシエや部下たちを放っておく訳にはいかんのだ」

「……そう、ですか」


 現状ゼアルの留守を任せられそうな者はラクリエしかいない。しかし今の彼女が不安定なのは言うまでもない。再びイハサを側に付けておく案もあるが、移動だけでベルガナ戦争に費やした日数を軽く超える上、イハサという戦力を欠いてアルヴヘイムを解放できるとはとても思えなかった。


「だがこれだけは保障しよう。それらの問題が片付けば、必ずアルヴヘイムを解放すると。今はそれしか言えないがな」

「……いえ、その言葉が聞けただけで十分です。謁見の許可を頂きありがとうございました」


 男は最後にもう一度頭を下げると、踵を返して去っていくのだった。そして……、

 

「ゼアル様、さっきの話は本当なのですか?」


 珍しく咎めるような口調でヴァルナが言う。


「さっきの話というのは?」

「ゼアル様が魔王ゼトのご子息だという件です。魔族である事は知っていましたが、まさかそれほどの血筋だったなんて……」

「うむ、だが別に大した問題ではなかろう」

「わたしにとってはそうですが、イハサちゃんにとっては……。ディルク、貴方は知っていたの?」

「いえ存じ上げませんでした。しかし人を眷族化できるのは魔族の中でもかなり位の高い者だけと聞き及んでおります。可能性として十分有り得ると思っておりました」


 話を振られたディルクが事もなげに答える。

 ディルクはゼアルによってその忠義を認められ、ゼアル自身の判断によってゼアル達の本当の関係、そしてテネロ失踪の真実を聞かされる事になった。しかしその時ですらディルクは、何となく察していた節があった。


「全く喰えない男ですね。ゼアル様、この事はイハサちゃんには……?」

「我は気にしていない……と言ってもイハサは気にするのだろうな。やむを得ん、しばらくイハサには黙っておくように」

「……はい」

「待って下さい、今のはどういう事なのです?」


 そんな中、黙ってゼアルとヴァルナの話を聞いていたディルクが、そう言葉にした。


「そうか、ディルクには教えていなかったな。イハサの父親はガリュウという。聞き覚えがあるのではないか?」


 言われてディルクは考えるように眉間に皺を寄せる。


「ガリュウ……、魔王ゼトを打ち取り、剣聖と呼ばれるようになった英雄。確かそんな名前だったはず……」

「その通りだ。二人は前の戦争で敵同士だったのだから、互いに殺しあったのも当然の成り行きだろう。だが……」

「それで、イハサ殿が負い目を感じてしまう、と……。確かにそうなるでしょうな。イハサ殿は責任感の強い婦女子ですが、同時に背負う必要のない責任まで負ってしまう節があります」

「イハサには機を見て我が伝えよう。その辺の感覚が分かるようになったら、な」

「はっ!」


 思い返せばゼアルがイハサに目を付けたのも、たまたまそれが剣聖ガリュウの一人娘であると知り、興味を持った事が大きい。故にこうなる事は必然であり、避けては通れない問題だったのだろう。

 イハサはまだ若い。いずれ分かる日も来るだろう。ゼアルはそう思案し、玉座に深く座り直すのであった。

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