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貯まった運で核兵器を  作者: レイジー
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”エリカ”の花言葉は”孤独”と”寂しさ”

 刑事のギムは刺す様な目線で2人を睨み問いかけた。反発を見せるドレッド。


「はぁぁ?何でテメェにそんなこと言わねぇといけねぇんだよ?」

「忠告しておく。悪用しないと誓った上で安全性の高い商品の購入なら認めよう。もしくは今回の購入は辞退しろ。そうすれば今後貴様らが逮捕された際は裁判で有利に働く様に便宜を図ろう」

「はーっははははは。ツッコミどころ満載だぜ刑事さんよぉ。まずテメェ、俺達を捕まえられること前提で喋ってやがるな?」

「当然だ!どんなに時間をかけても必ず貴様らを挙げて見せる!今ここに逮捕状があれば苦労しないんだがな」

「おーおー、おっかねぇ。それで?裁判だぁ?便宜だと?どう言うつもりだよ?"異世界にある夢の百貨店デパートアトランティス"に招待されたが何も買いませんでしたので減刑お願いします"ってか?俺が刑務所に送られる頃テメェは精神病棟送りだな」

「笑っていられるのも今の内だぞ…」

「おいおい、落ち着けって。訳の分からねぇ事態でテメェだって頭こんがらがってんだろ?取り合えずコトが落ち着くまでは休戦といこうじゃねぇか」

「…」


 ドレッドの言う通りギム刑事自身も心には余裕が無かった。

加えてあのオットロという女性がここにいる5人を"客"と呼んでいる以上、商品の購入が終わる前に逮捕し身動き取れない状態にしてしまった場合、オットロにどんな仕打ちを受けるか分からない不安もあったため、断腸の思いでドレッドの提案を呑まざるを得なかった。


「…」


 殺し屋のギルティは何も発しなかったが、腕を組み目を瞑ったままであることからギム刑事の忠告に従うといった態度ではないことは明らかだった。


「ギルティ、君は殺し屋だと言ったな?間違いないのか?」

「…だったら何だというのだ?」

「言うまでもない」

「…」


 殺し屋のギルティは目を開けないまま喋り始めた。


「金次第で誰でも殺す。お陰様で商売は盛況だ。この世の中が恨みと憎しみに溢れているお陰でな」

「…」


 ギム刑事はただ黙って殺し屋のギルティを睨み続けた。


「ねぇねぇ、いい人でも殺しちゃうの?」


 突然難民の少女に問いただされたギルティは徐に目を開き静かに答えた。


「…あぁ、その通りだ」

「よし、いいだろう。貴様らの意思はよく分かった。後悔することになるぞ。よく覚えておけ!ルールと正義を守らぬ人間が辿る末路を思い知らせてやる!」


 先程までヘラヘラした表情で会話を続けていたドレッドだったが、ギム刑事の発言を聞き終えた途端、その表情は険しいものに一変した。


「…テメェこそあんまり粋がってんじゃねぇぞ。ルールだ正義だ胸糞ワリィ御託並べやがって。そんなもの守った人間が全て報われるってのか?あぁ?俺達ぁ違ったぜ。スラム街の現状をテメェは知ってんのか?」

「それで麻薬取り引きの罪を正当化したつもりか?」

「あーあ、その通りだ。お陰様で今日まで生きてこれたんだからなぁ。やられる前にやる、盗まれる前に盗む、生きるためには何でもする。これが俺達が生まれた時から貫いてきた正義とルールさ」

「あ、あの、僕もそう思います。校則を守ってるからって特に何もいいことなんてなかったです…。本当損してばっかりで…」

「っるせぇ!すっこんでろクソガキ!テメェみてぇな生ぬるい世界と一緒にしてんじゃねー!!」

「ひぃっ!」

「…とにかく、法の裁きから逃れられると思うなよ」


 ギム刑事は眉間に強く皺を寄せ、腕組みをした上でぼやくようにそう告げた。


「よーし、じゃあ話はまとまったな。せっかくの御恵みを頂いたことだ、このバカバカしいお誘いに乗ってやろうじゃねぇか。1週間後が楽しみだぜ。じっくり吟味しておこうじゃねぇか」

「…フンッ」

「…異論無い。」

「ぼ、僕も、せっかくだから何か買いたいです」

「私も私もー!」


 それぞれが購入の意思を示すと、ドレッドが1番に立ち上がり、テーブル上の伝票を拾い上げた。


「ここぁ俺が出しとくぜ。今日は気分がいい」

「まて、貴様の様な外道に奢られるつもりは無い!」

「あーあー、うっせぇな。分かったよ、じゃテメェだけ自分の分よこせ。他は?…意義無ぇみてぇだな」


 ギム刑事は自分の財布からコインを取り出し、ドレッドに投げつけた。

ドレッドはそのコーヒー代を片手で握り潰す様に受け取ると、そのままレジへ向かって行った。

そして喫茶店を出た5人は蜘蛛の子を散らす様にそれぞれの帰路に着くのだった。

5人がそれぞれバラバラの道を行っている様に見えたが、とある2人は同じ方向に向かって歩いていた。というより、難民の少女がドレッドの跡をつけて歩いている様子だった。


「…」

「…」


 ドレッドは難民少女につけられていることにはとっくに気付いていたが、お互いしばらくは何も発せず歩き続けた。

やがてしびれを切らしたドレッドが振り返り難民少女に声を上げた。


「おいガキッ!テメェさっきからなんで俺に付いて来やがる?」

「だって、私行くところ無いんだもん」

「知らねぇよ!だからってなんで俺に付いてきやがんだ?」

「さっきお店でごちそうしてくれたから。あのオムライスってやつ本当に美味しかった!ありがとう!お腹いっぱいになったのって初めてだよ!」

「あぁ?」


 少女の純真無垢な表情と言葉に少々ドレッドは拍子抜けをした。


「…そういやぁテメェ難民とか言ってたな」

「うん、そうなんだ。だからお家とかが無くてさ」

「それならあの刑事野郎に保護してもらえばいいじゃねぇかよ。俺ぁガキのお守なんてするつもりは無ぇ!」

「んー、あのギムさんって人はいい人そうだけど、ケーサツの人達も何か怖いんだ…。私の国では悪いことする人も多かったし。それにギムさんはなんか私達の状況とかあんまり分かってくれなさそうだし…」


 ドレッドはしばらく無言で少女を見つめ、何かを思い出しているような表情を見せていた。


「家族は?」

「みんな死んじゃった」

「…」


 ドレッドはスラム街出身である自分の幼少期と酷似する少女の状況と運命に同情を感じずにはいられなかった。

しかしそれよりも大きな別の気持ちがドレッドを支配する。

その気持ちは頭の中で難民少女をどこかの人影と重ねることによって生まれていた。


「チビすけ、本名は?」

「無いよ。そうだ!おじさんつけてよ、私の名前!」

「はぁ?」

「お父さんになってよ。ね、いいでしょ?」

「あのなぁ、俺ぁおじさんって歳でも親父って年齢でもねぇ!」

「じゃあ、お兄ちゃん」

「…ったく。てかテメェは"オムライス"じゃなかったのかよ?」

「んー。やっぱりもっとかわいいのがいい。お兄ちゃんつけてよ、名前」

「なら"チビ助"だ」

「やだ!かわいくない!」

「めんどくせぇな…」


 ドレッドは不意に自分が立っている左手に花屋があることに気付き、とある花のプラカードに目を止めた。


「…"エリカ"これでいいだろ?」

「エリカ!うん、かわいい!ありがとー!」


 そういうと難民少女ことエリカはドレッドを追い越して先の方まで駆けて行く。


「お兄ちゃ~ん、早くぅ~!」


 10mほど先で大きく手を振りドレッドを呼び寄せるエリカ。


「おいおいマジかよ…。俺がガキのお守すんのかよ…」


 ドレッドは不本意な結果に大きな溜め息をつきながら片手で後頭部を掻き毟った。

そして先程のプラカードに再び目を移す。


【エリカ:ツツジ科、花言葉~孤独 寂しさ】


「…フンッ」


 ドレッドはゆっくりとエリカが手招きする方向に歩き出すのだった。

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