4人目のお客様:腕利きの女殺し屋、5人目のお客様:ドレッドヘアーの麻薬屋
次にオットロが現れたのはお屋敷の様な大豪邸の入り口門だった。
オットロは門をよじ登り侵入すると玄関と思われる扉を開けた。
そこにはスーツ姿の男2人が血を流して倒れている光景が広がっていた。
(ぎょっ!!?)
オットロは驚愕してしまったが辛うじて声を押し殺した。
大量の血でどす黒く染まったカーペットと男2人の生気を失った目が彼らの死を意味していた。
(な、な、な、なんですかこれは??一体何が起こってるんでしょう??)
オットロが戸惑いながら周囲をキョロキョロと見渡していると2階のから人の大声が聞こえた。
「ぎやぁああっっ!!」
オットロは巨大なエントランス中央にある階段を駆け上り、その声のする部屋の扉を開けると、そこには2人の男女が居た。
ベッドルームと思われる大きな部屋の床に1人のバスローブ姿の男がうつ伏せになっており、その男の後頭部を足で踏みつけている女は右手に大きな刀を握っていた。
(おおぉぉ!?こ、こ、これは、映画の撮影か何かですかぁ~?)
長い髪を後ろで結んだその女は忍者を思わせるような全身黒ずくめの服装に身を包んでおり、その服の襟が口元までを隠していた。
やがてその隠れた口元から声が発せられた。
「何か言い残すことはないか?」
「ま、待て!待ってくれ!誰に雇われた??頼む、見逃してくれっ!!報酬はいくらだ?その倍、いや、3倍払う!!頼む、頼むっ!!」
「殺し屋家業も信用が大切でね。依頼主を裏切る訳にはいかないんだよ。あんたらビジネスマンだってそうだろ?あぁそれと、依頼人からの伝言だ。"私達の子供を返せ、クソ野郎"だとさ」
「やめろおおおぉぉぉ!!!」
”ザクッ”
忍者風の女は右手に持っていた大きな刀をバスローブ姿の男の背中に勢いよく突き立てた。
「ぎゃあああぁぁぁぁっっっ!!!」
男が着ていた真っ白なバスローブは猛烈な勢いで鮮血に染まっていく。
男の断末魔が余韻を残す中、女は最後のひと押しと言わんばかりに突き立てた刀を半周回転させ男の内臓をえぐった。
(おおおぉぉ、こ、殺し屋さんですか!!)
オットロが内心を騒ぎ立てていると、殺し屋の女は何かの気配に気付いた様子で瞬時に後ろを振り返った。
「!!」
(ひっ!)
部屋の中には殺された男と殺し屋の女、そしてオットロの3人しか居ない。
勿論オットロは現在透明状態であることから殺し屋の女の目には映っていないが、それでも殺し屋の女は明らかに何かの気配を感じ取った様にゆっくりと部屋の周辺を見渡している。
(へ?へ?私のこと気付いて…る?)
オットロはビクビクしながら硬直状態になっていた。
やがて殺し屋の女は気のせいだったと言わんばかりに我に返ると、男に突き立てていた刀を抜き取り血をベッドにある布で拭き取り鞘に納めた。
(ほっ、セーフ。何だか鋭い方ですねぇ~)
殺し屋の女は物音を立てることなくその場から去って行く。
オットロは殺し屋の女が自分の横を通り過ぎ後、後姿を見せたタイミングでカードを拾い上げ、そのカードを女に当てようとした、その瞬間、
「!!」
女は再び何かの気配に気付いたのか、素早く振り返った。
(きゃっ、テ、テレポート!)
オットロは勢いそのままにカードを殺し屋の女に当て、そのまま2人はその場から消え去った。
そしてまたオットロは別の場所で姿を現した。
「ふー。次で最後ですねぇ~。ドリンクの効果もそろそろ切れるし、急がないと!」
オットロは目の前に佇む廃墟ビルを見上げていた。
周囲には一切の人影は無く、無機質で静かな空間が広がっていた。
オットロはビルの中に入って行くと、薄暗い中に2人の人影が見えた。
「ブツだ」
「確かに」
2人の男はお互いが持っているジュラルミンケースの中身を見せ合っていた。
ドレッド頭にヒップホップな格好をしている男が持っているケースの中には小分けに袋詰めされた白い粉が大量に入っており、相対するサングラスを掛けたスーツ姿の男が持つケースには隙間が無いほどの札束が入っていた。
「おい、次はいつだ?」
「慌てるな。こっちも金の準備がいる。また追って連絡する」
「こっちには時間がねぇんだ!大至急、もっと金が要る!ブツはすぐ用意出来るんだ、さっさと次を進めてくれ!」
「お前の事情なんか知ったことじゃない。まぁこっちも引き続きしのぎはしてもらいたいとは思ってる。慌てるな」
「…っち」
そして白い粉を受け取ったスーツ姿の男はドレッド頭の男に対し背を向け、その場を去って行った。
「…もっと、もっと金が要る」
1人残されたドレッド頭の男はぶつぶつと独り言を呟いていた。
(ふむふむ、この毛虫の様な頭をしている男性ですね~。何やら怪しい取り引き現場。今回は色々とドラマティックですね~)
オットロは少しワクワクした様な表情を見せ、例のごとくカードをドレッド頭の男に当てがい、2人は姿を消した。