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貯まった運で核兵器を  作者: レイジー
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さぁ、世界を救おう

 ”合算購入”の手法を知った3人はこの世界を少しでもまともな状態にすべく3人の合計運で購入出来る商品一覧に目を通しあるひとつの商品に意見をまとめた。

そしてオットロ誘導の元、第2世界のデパートアトランティスへ飛び立ち目的の商品を購入し第7世界の地球に舞い戻ってきた。

戻ってきたギムの手元にはアンティーク風の丸時計のようなものが握られている。


「よし、いいか?」

「おう」

「あぁ」


 ギム刑事は時計の針を回し、掛け声と共に時計にあるスイッチのような物を押した。


「”生物復元時計”発動!」


 その時計から放たれた眩く広い光りが当たり一体を覆い隠した。

そして次の瞬間3人が目にしたのは、死体として転がっていた兵士や市民達が次々と蘇り起き上がっていく光景だった。


「…すげぇ!マジで生き返ってやがる」

「はは、まるでゾンビ映画だな」


 そしてドレッド、ギルティも自身の異変に気付く。


「…治ってやがる。身体中」

「あぁ。私の打ちぬかれた肩も完治している。全く、こんな出鱈目な商品まで…。頭がついていかん」

「ってぇことは、俺達が浴びた放射線の影響もなくなってるってワケだ?」

「あぁ、そういうことだな」


<生物復元時計96時間>発動者が存在する惑星に生息する生物の状態を指定した日付に復元することが出来る。


「まぁ、もしこの間に病気の完治や手術を成功させた人間がいるとするならとばっちりだろうが、それは勘弁してもらおうか」


 やがて不思議な時計の効力により蘇らせられた人々は自身に身に起こった摩訶不思議な現象に驚き始める。


「あれ?俺…どうしたんだ?」

「あれ?オレ、え?ど、どうなったんだ?確かあの時…」

「あれ?ママ??」

「ルナァ!あら?私達、どうしたのかしら?」


 蘇った兵士達や市民達は一様に状況を飲み込めない様子だった。


「うぅ、うぅぅ…」

「!!!」


 そんな中、オットロを含む4人の背後で1人の男が蘇り起き上がってきた。


「あ、あれ?ここは?僕、どうして…?」


 それは先程死闘の末に敗れ、断末魔を残し絶命していたヨシオだった。


「!?」


 ヨシオは4人が自分を囲っていることに気付いた。

その剣幕は決して自分に対して良い感情を持っているものではないことを悟り腰を抜かしてしりもちをついた。


「え?何?何があったの?僕、どうして?え?」

「っち、やっぱりテメェも生き返ったか」

「え?え?え?生き返った?何?僕、死んでたの?あの時飛び降りようとして、それから、変な場所に連れて行かれて、ロボット買って、ドレッドさんと戦って、え?あれ?え?何が起こったの??」


 ヨシオが困惑の限りを示していると、ドレッドが勢いよくヨシオに迫った。


「よぉ、神に文句は言って来たか??」


 動揺するヨシオの胸ぐらを掴み無理やり立ち上がらせるドレッド。


「うわぁぁあっっ!!」

「時間が短くて言い足りねぇだろ?安心しろ、テメェだけは今この場でぶっ殺してもう一度送り返してやる!!!」

「ひぃっひぃぃぃ!!!」


 拳を掲げるドレッド、その腕を背後から掴み止めるギム刑事。


「よせ、離してやれ!」

「はぁ??テメェ正気かよ?こいつがまたあぶねー物買って暴れやがったどうするつもりだよ??」

「それは無いだろう。もう彼は殆ど”運”を残していない、でしょ?オットロさん」

「そうですねぇ~、多分殆ど無いと思いますよ~」

「彼自身がしたことは許されないが、彼自身もまた被害者だ。これからの人生で償わせるのが筋だろ」

「…っち」


 ドレッドはゆっくりと拳を収めヨシオを地面に投げ捨てた。


「いてぇっ!!」

「ヨシオ君、もう行け。忠告だ、2度と復讐なんて考えるなよ?少しでも変な動きを見せたら、不本意だが殺し屋の彼女を君の元へ送らなければならないかもしれないぞ!」

「!」

「ひぃっ、う、うわぁぁぁぁあああ!!!」


 大きな叫び声をあげながらその場を慌てて去っていくヨシオ。

誰も彼を追いかけようとはしなかった。


「彼はこれから”運”のない人生を歩むことになる、辛いだろうが立ち直ってくれることを祈ろう」

「ちっ」


 ドレッドがヨシオが逃げていく方向とは反対側を振り向き舌打ちを打つと、ひとつの掛け声が自分に向かって来るのが聞こえた。


「お兄ちゃーーん!!!」

「!!!」


 声のする方向を見るとそこには大きく手を振りながらこちらに向かってかけてくるエリカの姿があった。


「エリカァァア!!!」


 ドレッドはたまらず駆け寄り、エリカを受け止め強く抱きしめた。


「エリカ、よかった、よかった…」

「お兄ちゃん、どうしたの??一体何があったの??私、気付いたらなんか箱みたいなところに入れられてて、すごく怖かった…」

「…さぁな。んなことぁどうでもいい!とにかくよかった…」


 2人が抱き合う姿を微笑ましく見つめる3人。


「いやぁ~、よかったですねぇ~。感動ですぅ~」

「全く、よく仰いますよ。エリカちゃんが殺された時、平然としてらしたくせに」

「いや~、エリカさんが死なないことは分かっていたので~」

「…え!?どういうことですか?」

「最初に私が皆さんをデパートアトランティスに案内していた時、エリカさんは”未来予想ジュース”を飲んで大人の姿になりましたよね?もし子供の頃に死亡するならあのジュースを飲んでも大人の姿にはなりませんので~」

「あ、そういうことだったんですか!」


 するとギム刑事に向かって2つの掛け声が近付いてきた。


「あなたー!!」

「パパー!!」

「ドトル!ストロ!」


 ドレッドと同じく、駆け寄ってくる2人をその腕で受け止め強く強く抱きしめるギム。


「終わった、終わったぞ、もう大丈夫だ!」

「あなた、これ一体何があったの?もう本当に大丈夫なの?」

「パパー、怖かったぁぁぁ」

「大丈夫、もう大丈夫なんだ…」


 その様子を見ていたギルティは何を言うことも無く静かにその場を去ろうとしていた。


「あら~?ギルティさん、行かれるんですか~?」

「私は日陰の人間だ。また闇に潜むとする」

「皆さんにお別れは言わないんですか~?」

「必要ない。あの刑事に”約束は守れよ”とこと伝えてもらえるか?」

「え?どういうことですか?」

「そのまま伝えてくれればいい。あぁそれと、これも奴に返しておいてくれ」


 オットロが受け取ったのはギム刑事の家族の写真だった。

そしてギルティはその後一切こちらを振り向くことはなく荒れ果てた街の彼方に消えて行った。

世界中の人々がこの数日に味わった世界終焉の危機と恐怖。

多くの街は破壊され、死んだはずの人間は蘇り、しかしデストロイド1号はその姿を再度見せることは無い。

あまりにも不可思議な今回の出来事、もしかして夢だったのではないかと唱える者も少なからずいたが、どれだけ考えても辻褄の合わない今の状況にやがて人々は過去を模索することを諦め、街の復旧と共に未来に向けてそれぞれの道を歩み始めた。

放射線による汚染物質も検出されなかったことからギム刑事が心配していた国際問題にも発展せず、その歩みは順調に進められていったのだった。

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