制御しきれぬ力、過ちを犯し暴君
ギム刑事の説得に耳を貸すヨシオは静かに真相を語り始めた。
一同は疑問の表情を浮かべながらじっと聞き入る。
「殺したって?誰かを殺したのか?一体誰を?」
「うぅ…うぅぅう…」
遡ること数日前、説明書を熟読し終わったヨシオは初めてデストロイド1号の試乗に乗り出していた。
30cm程のプラモデル程度まで縮小されたデストロイド1号は首の部分を捻ると等身大にまで巨大化する仕様だった。
夜暗くなった自宅の裏庭で機体を巨大化させ、ロボットの背中にある梯子をよじ登りスイッチで操縦室の蓋を開け中に入り席に座る。
改めてポケットにしまっておいた説明書を見ながらいくつかのスイッチとレバーを操作しデストロイド1号の起動を成功させた。
「おおおぉぉぉ、すごいすごい!」
感動に表情が輝くヨシオは歩く、走る、飛ぶ、腕を回す、等の動作を一通り試した後、空に向かってキャノン砲の発射にも難なく成功した。
「す、すごい…。無敵だ!これであいつ等に土下座させてやる!」
不敵な笑みでそう言い漏らしたヨシオは足元からジェット噴射を吹き出し宙に舞い、遥か空の彼方に飛んで行った。
上空から街並みを見下ろしながら飛行を続けていたヨシオだったが、とある公園に3人の人影を見つけ、その場所に急降下し始めた。
「あぁ~、だりぃ~。補習とかマジやってられっかよ」
「マジで。あのクソが。いつかぶっ殺してやる」
「まぁセンコー殺すのはさすがにやべぇし、やっぱヨシオ奴と遊んでやるしかねぇんじゃね?」
「そういやぁアイツ、まだ金持って来て無ぇな。お仕置きが足りねぇ感じ?」
「だよな~、そろそろマジで骨くらい折ってやらねーと分かんねぇんじゃねーの?」
「つーかその前に自殺したりしてな?」
「それいいじゃん、マジで面白れぇ!!」
そこに集まり下品な言葉と笑い声で談笑していたのはヨシオをいじめている不良学生3人だった。
すると3人は違和感のある雰囲気を感じ、それは次第に大きくなる轟音と突風が空から自分達の方向へ向かってきているものだと気付いた。
”ドッゴーン”
「!!?」
3人が目にしたのは大迫力の上で自分達の目の前にそびえ立つデストロイド1号の姿だった。
「な、な、なんだこりゃあ??」
3人は腰を抜かし地面にしりもちをついてデストロイド1号の姿に怯えていた。
訳が分からないといった様子でまじまじとロボットを見上げる3人。
やがて頭頂部の操縦室のガラス窓が開きヨシオが3人に姿を見せた。
「ヨ、ヨシオ!?」
「やぁ…」
「お、おい、お前、なんだこりゃ?一体なんなんだよ?」
「神様からのプレゼントさ、お前たちを懲らしめるための!」
「はぁ?んだと?」
「今から僕に向かって土下座して謝れ。そして今まで渡したお金を全部返せ。あと2度と僕に近寄らないってことを誓え!今ここでだ!」
「はぁ?んだとコラァ!!」
「あと今まで僕を殴った分、お前達のことも殴らせろ、じゃないとこのロボで踏み潰す!!」
3人はとっさの出来事に状況を整理しきれないといった表情ではあったが、間も無くして立ち上がりヨシオに向かって激昂し始めた。
「っざけんなよクソチビ。クズ野郎が、ナメてっとマジでぶっ殺すぞ!!!」
「降りてこいコラァ!テメェ後でどうなるか分かってんのか?あぁ?」
要求を受け入れる様子を見せない3人を見てヨシオは眉間のシワを増やし強く奥歯を噛み締めた。
そして手元のレバーを少し動かすと、機械が軋む音と共に轟音を響かせた。
「!!!」
デストロイド1号はドラム缶の様な極太の腕を大きく振り上げ、そのまま地面に殴り下ろし公園のベンチを粉々に粉砕した。
「僕は…本気だぞ」
今までの恨みを蓄積させた怒気満載の表情を3人に向けるヨシオ。
潰されたベンチを見た3人は一気に青ざめ一目散にその場から逃げ出した。
「に、逃げろっ!!」
「あ、ま、待て!!」
逃げ出した3人の姿に慌てたヨシオはつい勢いよく身を乗り出してしまった。
そしてその勢いから手元が狂い、あさってのレバーを奥に押し込んでしまった。すると次の瞬間、
「あ、し、しまった!!」
ヨシオがミスに気付いた瞬間、既にデストロイド1号は手の平を逃げ惑う3人の方向に向け一瞬にして光線の様なものを放射していた。
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
3人の悲鳴と同時にヨシオの慌てる声も鳴り響いた。
光線が止み眩い光が消え去った後、そこに残っていたのは真っ黒に焼け焦げ辛うじて人の形原型を留めながら地面に倒れ込む3人の姿だった。
「あっ、あぁっ、あぁ…」
ヨシオが操作するデストロイド1号はゆっくりと3人の元へ歩み寄って行く。
近くまで来たヨシオはデストロイド1号を降りると、近くで3人の姿を目の当たりにし、その場に膝から崩れ落ちた。
「…!!」
倒れていた3人は皮膚や服が焼け破れ中心にいた不良学生に至っては頭蓋骨が半分剥き出しの状態になっていた。
「うぅ、ぐっ、がぁっ…」
「!!!」
突然右側に倒れ込んでいる不良学生が声を上げた。
ほんの微かだが息がある様子だった。
「あぁ、あぁ、あぁ…」
「げぇっ、がぁっ、ぐっ、よ、しお…」
怯えふためくヨシオを横に最後の力を振り絞り断末魔を残した不良学生。
一部始終を見ていたヨシオはその場に勢いよく嘔吐した。
「おっげぇぇぇぇ~…、っか、はっ、はぁはぁはぁ…」
「おーい、こっちだ。こっちから音が聞こえたぞ!」
「はっ!!!」
先程の爆音を聞きつけた近所の住民が次第に公園に向かって来る声が聞こえた。
ヨシオは慌ててデストロイド1号に乗り込み大急ぎで空へ舞い上がりその場を後にしたのだった。
その後ヨシオは自宅に戻りデストロイド1号を降りると、足元にあるスイッチで縮小化した後に両腕で本体を抱え自分の部屋に入り鍵を閉めた。
一度深呼吸をした後、気持ちの整理をする間もなく気絶するかの様にベッドへ倒れ込み深い眠りについたのだった。




