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貯まった運で核兵器を  作者: レイジー
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1人目のお客様:正義の化身ギム刑事

 オットロが姿を消した数秒後、本人は既に陸地に足を着けていた。

そこは地球、多くの人々が行き交うスクランブル交差点のど真ん中だった。


「おおお、すごい生物の数!そういえば人型生物だけで70億って資料に書いてあったっけ!これは期待出来るぞぉ~!」


 オットロが何やら嬉しそうに周囲に目を配っていると、まもなく信号は赤に変わり停車していた車が動き始めた。

ただ一人交差点のど真ん中に立ち尽くすオットロにクラクションの嵐が吹き荒れる。


「オイコラッ!!姉ちゃん!何やってんだ、邪魔だ!どけぇっ!!」


 窓から顔を出したいかつめのドライバーから怒声が飛ぶ。


「ああぁぁ、す、すみませぇぇん!」


 オットロは慌てつつカバンからひとつのアメ玉を取り出し口に放り投げると、その瞬間オットロの体はロケットのごとく勢いで空に舞い上げられていった。


「!!?」


 怒声を浴びせたドライバー含め、周りの人々は何が起こったか分からないといった様子で目を皿のように広げていたが、その時既にオットロは雲と同じ高さの上空に一人浮いていた。


「うげぇぇ、やっぱり不味いこの"空飛び飴"。イチゴ味にすればいいのにぃ…」


 眉間にシワを寄せながら再びカバンをまさぐるオットロ、次に取り出したのは眼鏡のような物だった。


「よし!ではでは、アメが溶けちゃう前に早速調査開始ー!」


 オットロが眼鏡を掛け、淵にあるスイッチを押すと軽快な電子音を立てながらレンズには軍隊が使うレーダー映像の様なものが映り始めた。

音に連動しながらレンズに映る映像は何かの分析をしている様子が伺える。


「おおおおおおお、すごいすごい!こんなに"運"を貯めている生物がたっくさん!ふむふむなるほど~」


 オットロはレンズが映し出す映像に歓喜の声を上げた後、ぶつぶつと独り言を呟き始めた。


「えーっと、ウチで買い物出来そうな位の"運"を持ってる生物はっと…ここと、あそこと、うーん、ここもいけるな」


 レンズに映る映像を見ながら独り言は続く。


「ん~、ココは第7世界かー。低世界だし説明しても信じてくれるかどうかが心配だな~」


 数秒の沈黙が続き、オットロは何か吹っ切った様な表情を見せる。


「よし、悩んでても仕方ない。駄目元で適当に当たってみよう!信じてもらえるか、買ってもらえるかは私の腕に掛かってるんだし、これも修行なり!」


 そう言うとオットロは再び眼鏡の淵にあるスイッチを操作し始める。


「んー、よし、この人とこの人と、えーっとこの人、それにこの人とこの人、取り合えず5人位でいっか。ではでは、早速移動開始!」


 オットロは先程瞬間移動の様な動きを見せた時に使用したカードを取り出し、同じ様にカードを持った手を高らかに天に突き上げた。


「まずは一人目、テレポート!」


 言い終えた瞬間、先程同様オットロの姿はその場から一瞬にして消え去った。

次にオットロが姿を見せたのはとある高級料亭の様な場所の入り口だった。


「おっと、忘れてた…」


 オットロはカバンの中から缶ジュースの様な物を取り出すとそれをグビグビと飲み干した。

すると瞬く間にオットロの顔、手、そしてスカートから伸びる足が消え去り、カバンと服だけが形を成して宙に浮いている姿となった。


「この"この透明人間ドリンク"も改良されないかな~。いちいち裸にならないといけないのが嫌なんだよな~…」


 見えるのはオットロのものであろう動きに合わせて動作する眼鏡や洋服。

徐々に脱ぎ去られ、まとめられた服とカバンそして眼鏡は木陰の様な場所に置かれた。


「よーし、では早速いきましょー。えっと確か向こうの部屋…」


 オットロは料亭の中に入り廊下を突き進んで行った。

するとある部屋の入り口前に5人のスーツ姿の男性が息を殺して佇んでいる。

全員その表情はとても険しく、部屋の中の会話に聞き耳を立てている様子だった。


(あらあらあら、なんだか物々しい雰囲気ですねぇ~)


 ふすまを挟んで部屋の中からは別の男達の話し声が聞こえてきている。


「いやぁ~~、しかし本当に助かりました。もう少しでクビになるところでしたよ」

「全く警察署長ともあろうお方が、しっかりして下さいよ。まぁ証拠はもみ消しましたのでご安心を」

「さすが、政治家の先生は権力が違いますな」


 中から聞こえてくる中年男性と思わしき2人の男の会話、それはたった10秒程でも既にクリーンな内容ではないことは明らかだった。

その内容を一語一句聞き逃すまいと殺気交じりの表情で聞き耳を立てる外の5人。

リーダー格と思われるコートを羽織った男が他4人にアイコンタクトで合図を送った後、勢いよくふすまを叩き開けた。


「!!?」

「コスギ所長、ヨシダ先生、押収品横流しの容疑でお2方を逮捕します!」


 部屋の中で怪しい会話を交わしていた2人の中年男性は突然のことに驚きの表情を隠せない様子だった。


「ギ、ギム刑事っ!?な、何でこんな所に!?」


 コスギ所長と呼ばれた薄毛で恰幅のいい中年男性がリーダー格の男に声を掛けた。


(ふむふむ、どうやらこの人たちはセキュリティの方々らしいですね、この星では刑事と呼ばれてるんですね~)

「ヨシダ先生、貴方もです。先程の会話は聞かせていただきましたが、残念でしたね。もみ消しきれなかった証拠が出てきましたよ」

「!?」


 慌てふためく薄毛で恰幅のいいコスギ所長に対し、高級そうなスーツにみを包んだヨシダ先生と呼ばれる男に慌てる様子は無く、ゆっくりと立ち上がり、リーダー格のギム刑事に歩み寄って行く。


「…君、ギム君とか言ったかね?大物政治家である私を逮捕することがどういうことになるのかは分かっているのかね?」


 強い睨みを利かせ、ギム刑事に迫るヨシダという男に対し、ギムは一切怯む様子を見せなかった。


「えぇ、よく分かっています。法に違反している人間を裁き平和な世の中を実現するのです。不正は一切許されない!これからストレスの多い生活になります。肌荒れにはご注意を」


 ギム刑事の返答に何かを噛み殺したような表情を見せるヨシダだったが、それ以上抵抗の様子を見せることは無く、他4人の刑事達に大人しく連行されて行く。


「いいか、覚えておけ!貴様が失うのは職だけではないぞっ!」

「…腐った政治家め、必ず裁きを下してやる」


 捨て台詞を吐くヨシダという政治家の男を横目で睨みながら小さく呟くギムという刑事。


「ギ、ギム君、頼む、見逃してくれ!今なら間に合う、出世でも昇給でも希望異動でも、何でも口利きをしてやるからっ!」

「さっさと連れて行けっ!」

「はいっ!」

「ひっひいぃぃっ!!」


 最後に悪あがきを見せたコスギ所長もヨシダと一緒に他4人の刑事に連行されて行った。


(ふむふむ、正義のセキュ、あ、刑事さんってわけですね~。では一人目はこの方に決定~)


 オットロは足元に引きずり隠していたカードを拾い上げ、現場に一人残ったギムという刑事の背中にカードを押し当てた。


「!?」


 違和感を感じたギム刑事が後ろを振り返った瞬間、


「テレポート」


ヒュンッ


 オットロのひと言と共にギム刑事とオットロは一瞬にしてその場から消え去ってしまった。

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