自殺志願者ヨシオの購入商品
その頃、第2世界ではオットロが会社の自席で椅子の背もたれを大きく反らし天井に向かって勢いよく背伸びをしていた。
「ん~~~~。よーし!これで今期のノルマはなんとかなりそうだぁ~!」
そんなオットロの背後から一人の男性が声を掛ける。
「よっ、オットロ。調子いいみたいだな」
「あ、先輩!お疲れ様です!はい~、お陰様で~」
そこに立っていたのはオットロに地球を紹介した先輩社員の男だった。
「そういやぁ、あの第7世界の星どうだった?」
「はい!第7世界なのにも関わらずとても優秀な方々が多かったです~」
「そうか、そりゃよかった。で、何が売れたんだ?」
「あ、これが地球の皆さんがご購入された商品の一覧です~」
オットロは机上の資料をその男に手渡した。
「ふーん、何々?”天空料理人のオーブンレンジ”に”トルトーレの涎”、へー、核兵器も売れたのかー」
「そうなんですよ~。第7世界ではまだ核兵器は大きな影響力がある兵器ですから、3人の方が欲しがっていらっしゃいましたね~」
「”マルチコピー機”と、・・・え!?これ、マジか?これが売れたのか?」
男が資料の一文を指差しオットロに問い掛ける。
「あ、そうそうそう!私もびっくりしちゃいました~」
「へー、まさか第7世界の生物にこの商品を買える奴がいるとはな~」
「その方は自殺志願者の方でした。ちょうど私がお会いした時に飛び降りる寸前だったんですよ~」
「あー、なるほどね。そりゃ納得」
そう言うと男は資料をオットロに返し隣にある自席に腰を落とした。
「ふふふー、これはもう一度第7世界に営業行く価値大アリですね~」
オットロは改めて資料を眺め満足げな笑みを見せた後にその資料をファイルにしまい込んだ。
それから数日が経過した第7世界の地球。
「ふぁああぁぁ…」
自宅のベッドから大きなあくびと共に体を起こしたのは麻薬犯のドレッドだった。
寝室を出てリビングに来ると、先に起きていたエリカがTVの目の前に座り込み映像を食い入るように見ていた。
「あ、お兄ちゃん!ねぇねぇ、これ見て!」
「あぁ?」
寝ぼけ眼で頭を掻きながらエリカの後ろに立ちTVの映像を見ると、そこには驚愕のニュース映像が流れていた。
「なっ、なんだこりゃあ…?」
そこにはおよそ2階立ての建物と匹敵するほどの大きさをした人型ロボットが縦横無尽に暴れ周り街を破壊して回っているリアルタイム映像が流れていた。
[昨夜より現れた正体不明のロボットは未だ街を破壊して回っている模様です。その目的は不明。警察が交渉や静止を試みるも一向に被害が止む気配はありません。既に5つの街が破壊され、被害はおよそ数万人にも上っています。今も尚その勢いは止まる様子を見せない中で警察は”このままでは数日で国が滅びる可能性がある”と声明を出しています]
「お、おいおい、なんかの特撮ものかよ…?」
驚異のスピードで走り回り、足からジェット噴射を出し宙に浮いてはドラム缶の様な極太の腕を振り回し次々に建物を破壊していく映像が永遠と流れていた。
「あ、ヨシオのお兄ちゃんだ!」
「何!?」
「ほら、あそこの頭のところ!」
「…!」
そのロボットの頭部をよく見るとガラス越しから微かに操縦席の様な内装が見て取れた。
そこに座って器用にレバーやボタンなどを操作していたのは、あの小柄な自殺志願者の学生ヨシオだった。
「あ、あの自殺小僧!!あれがあの野郎の買った商品か?一体なんなんだありゃ??」
ドレッドはしばらくニュース映像に見入っていたが、やがて自分の部屋に戻り着替え始めた。
再びリビングに戻って来るとTVの前では止まらず、エレベーターの方向に向かって行った。
「お兄ちゃん、どこに行くの?」
「エリカ、お前は絶対に部屋から出るな、いいな?」
「え?う、うん…」
エレベーターのドアが閉まり駐車場に着いたドレッドは停めてあった自身の車に乗り込み勢いよくエンジンを吹かし走り出した。
車の中にある小型TVにニュース映像を映し出し、現時点でロボットが暴れている場所を確認し一目散に走り続ける。
目的地の手前数kmからは既に大混雑が発生しており、ドレッドの車も渋滞に捕まった。
「くそっ!」
ドレッドは車を乗り捨て目的地に向かって走り始めた。
しばらく走り続けると警察や軍隊が防衛線を張っている現場に辿り着き、指揮を執っているギム刑事の姿を確認した。
「おーい!ギムー!」
「!?」
ドレッドの呼びかけに気付き振り返るギム刑事。
「お前、何故こんな所に来た?」
「んなことより、一体どうなってんだよ、こりゃあ?あの自殺小僧がなんであんなもんに乗って暴れてやがんだよ?」
「我々にも分からん!話を聞こうにも危なくて近付くことも出来ん。ミサイルを撃ち込んでもびくともしないんだ!」
「な、なんだと…?」
警察と軍の防衛線から数百m先で暴れ回っている巨大ロボットを見て、改めてその迫力に怯むドレッドとギム刑事。
周囲には逃げ惑う人々の叫び声が入り混じり、道端には多くの人間が倒れ、無数の血痕が散らばっていた。
2人がただただ立往生していると、そこに殺し屋のギルティも現れた。
「あ、あれは…?一体何が起きているんだ?」
「分からない。恐らくあればヨシオ君の購入した商品だろうが、目的は一切不明だ!」
「マジでぶっ飛んでやがる、ヤベェ薬でもやってんじゃねぇのか?」
「まさか貴様が渡したわけじゃないだろうな?」
「んな訳ねぇだろ!ガキには売らねぇ!」
「そんなことは今どうでもいい!取り合えず、あのロボット兵器が一体何なのかをあの女に聞くのが先決だろう!」
「そ、そうだ!」
ギルティの提案に2人は少し冷静さを取り戻した様な表情を見せた。
「よし、あのスイッチで!」
ギム刑事はポケットからスイッチを取り出すと同時にそのスイッチを押した。
間も無くしてオットロがその場に現れた。
「あら~、皆さんお揃いで~。ご無沙汰しております~」
急に瞬間移動してきたオットロに周囲は訳が分からないといった表情を見せたが、3人はお構いなしにオットロに問い詰め始めた。
「おい姉ちゃん、あの馬鹿デカいロボットは一体何なんだよ?」
「え~?あ~!あれですね~?あれは…」