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貯まった運で核兵器を  作者: レイジー
18/42

「…"ただいま"だろーが」

「ありがとうございましたぁ~」


 その頃第2世界のオットロはデパートアトランティスの入り口で客を見送っていた。

するとポケットに入れていた携帯端末が鳴り響く。


「あらあら、またお呼び出しですねぇ~」


 オットロはカバンから端末を取り出し第7世界から再び呼び出しが掛かっていることを確認した。

そそくさとテレポートカードを端末と入れ替えで取り出し、"テレポート"を唱えその場から姿を消した。

第7世界に到着しするとそこで待っていたのは難民少女のエリカだった。


「エリカさん、こんにちわ~。先日はありがとうございました~。お元気ですか~?」

「うん…」

「商品はお役だてていただけていますか~?」

「うん!あのレンジの料理、本当に美味しい。ありがとう」

「それはよかったです~!で、本日はいかがなさいましたか~?」

「…うん、実はね。ちょっとお願いがあるの…」

「お願い?」


 オットロは少し深刻そうな表情を見せたエリカを見て、営業スマイルによって細くなった目をまん丸と広げた。


 時を同じくして殺し屋のギルティはとある高層ビルの屋上に居た。

地面に腹ばいになり双眼鏡で町並みをゆっくりと見渡しある人物に目を止める。


「…奴か」


 ギルティの双眼鏡に映っていたのは真っ黒な高級車の中から出てきた1人の男。周囲にはボディーガードと思しきサングラスとスーツ姿の男達が周囲を警戒していた。

ギルティは双眼鏡を右側横に置き、左側においていたライフル銃を手に取って狙いを定めた。

照準器にターゲットの男が映っていることを確認し静かに引き金を引く。


「!!!」


 銃弾は男の左胸に命中し、その場に派手に倒れこんだ姿を見てギルティはライフル銃を再び自分の左側に置いた。

周囲のボディーガードらしき男たちは大慌てで周囲を見渡したり、男の容態を確認したり、電話で誰かに連絡を取ったりと周囲は騒然を極めている。

ギルティはライフル銃と双眼鏡を黒く細長いカバンに詰め込み、かがみながらその場を後にする。

ビルの階段を早足で駆け下りながら携帯端末を取り出すと電話をかけ始めた。


「完了した。残りの金を振り込め」

[あぁ。確認した]


 電話口からは変声期を使ったような声が聞こえていた。

ギルティは電話を切り同じ端末で自身の銀行口座を確認し金が振り込まれたことを確認すると、端末を内胸ポケットにしまい込んだ。

ビルの裏口から出てきたギルティは先ほどの忍者のような黒尽くめの服装ではなく、ごくごく一般的な20歳前後の女性が好みそうなカジュアルな服装に身を包んでいた。

タイトなスキニージーンズにグレーのチューブトップ、上にはニットのカーディガンを羽織っている。

注意深く周囲を確認しながら一目散に歩き続けるギルティ。

やがて人通りの多い場所に出ると歩く速度は街の人間と同じスピードへと落ちていった。

ギルティは自身が泊まっているホテルに到着するとエレベーターを使って部屋の階まで上がりドアを目視する。

するとそこに一人の人物が立っていることに気付いた。


「お前、こんなところで何をしている!?」

「突然ごめんなさい…」


 そこに立っていたのは難民少女のエリカだった。


「なぜこの場所が分かった?」

「オットロさんに聞いたんだ」

「私に何か用か?」

「うん」

「…取り合えず中に入れ」


 ギルティはそう言うとエリカを自身の部屋に招き入れた。

荷物を置いたギルティは早速エリカに問い掛ける。


「それで、一体何の用だ?」

「お姉ちゃんも昔、戦争難民だったんだよね?」

「!」


 予想外の問いかけに驚きを見せるギルティ。


「…そうだ。それが何だ?」

「お姉ちゃんはどうやって生き抜いてきたの?」

「…」


 ギルティは言葉を詰まらせた。それは11歳の少女に突き付けるにはあまりに過酷で残酷な現実と過去だった。


「…何故そんなことを聞く?」

「あのね、私今ドレッドのお兄ちゃんのところに居るんだけど、やっぱり迷惑かなーって。もしあそこを追い出されたらこれから一人でどうやって生きていこうかなって…」

「あのギムという刑事に保護してもらえばいい。施設を紹介すると言っていたはずだ」

「私が住んでいたところでは警察の人も悪い人が多かったから怖いんだ。女の子に乱暴したり奴隷として扱ったり、みんなに殴られて殺される人もいた」

「…」


 俯き加減で辛そうに過去を語る少女を見て、ギルティは自身の思い出と重ね合わせた。

そしてしゃがみ込みエリカと同じ高さの目線で見つめエリカの頭に優しく手を置いた。


「いいか、あのドレッドという男は恐らくお前を無理に追い出したりはしない。奴がお前を見る時の目には慈愛が映っている」

「ジアイって?」

「"優しさ"ということだ」

「本当?」

「あぁ。だがどうしても居辛くなったらギム刑事を頼れ、あの男は信用出来る。私が保証する」

「…そうかな?」


 再び俯くエリカ。


「それでもどうしても怖かったら、また私の所へ来い」


 ギルティの言葉に驚きと嬉しさを混ぜたような表情で顔を上げるエリカ。


「本当?いいの?」

「あぁ。私は商売柄危険が多い。出来ればそうならないことを祈るがな」

「うん!ありがとう、お姉ちゃん!」


 そう言うとエリカは部屋を出て行った。

その後姿を見送るギルティの目にも、やはり慈愛が満ちていた。


 エリカはドレッドの住むマンションに到着するとエレベーターに乗り込んだ。

ドアが開いた後、恐る恐る部屋の中に目をやると、そこにはドレッドが立っていた。


「…」

「…」


 エリカは最初ドレッドのことを直視出来なかったが、俯き加減で目線だけを上げドレッドを見る。

ドレッドも何となく照れくさそうな表情で目線を泳がせながらエリカを断続的に見ていた。


「お、お邪魔します…」


 エリカが恐る恐る口を開く。


「…"ただいま"だろーが」

「え!?」


 ドレッドは後頭部を掻きながらエリカに背を向けた。


「…早くなんか飯作れ。あのレンジ、お前にしか使えねぇだろーが」


 その言葉を聞いたエリカの表情は花が開いた様な喜びに満ち溢れたものに変わった。


「うん!!」


 エリカは勢いよくドレッドの元へと駆けて行くのだった。

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