麻薬犯ドレッドの真相
突然自身の麻薬取り引き現場に現れたギム刑事に動揺するドレッド。
しかしドレッドはギム刑事の異変に気付く。
(…何で手帳や銃を見せねぇ?俺を逮捕しに来たんじゃねぇのか…?)
ギム刑事は身構える様子すらなく、ただただドレッドを強く睨んでいた。
そして次の瞬間、ドレッドはギム刑事の発言に耳を疑った。
「妹が心配か?」
「はぁ!!?」
ドレッドはギム刑事の予期しない発言に強く戸惑った。
「スラム街で生まれ、両親はマフィアの組織に巨額の借金を作った挙句殺害された。お前は残された妹のために麻薬の運び屋に手を染めたそうだな」
「!!」
「しかし完済どころか利子だけが膨らみ妹を異国に売り飛ばされた、そうだな?」
「…てめぇ、何でそれを?」
「生きてるかどうかも分からない妹を取り戻すため、本格的に麻薬ディーラーになり危険な連中を相手取り大金をかき集める日々。人身売買された人間を探し出すには情報料ひとつとっても莫大な金額がかかるだろうな」
「…ッッ」
「お前がエリカちゃんを引き取ったのも妹の名残か?生きていればちょうどあれくらいの年齢か?」
ドレッドは奥歯を強く噛み締め、睨み殺すがの如く怒りの表情をギム刑事に向けた。
「てめぇ…それ以上余計ないことほざくつもりなら今この場でぶっ殺すぞコラァ!!!」
ドレッドは腰元から勢いよく銃を取り出しギム刑事に向けた。
ギム刑事は怯む様子は一切見せず静かに腕組みして引き続き語りかける。
「いいか、同情の余地が無いとは言わん。しかし貴様が不法者であることには変わりはない。今後も我々はお前の逮捕に向けて全力を挙げる。そのことを忘れるな!」
「…それで、今がまさに絶好の機会ってわけかよ?」
「…生憎だが、今日は警察手帳をデスクに忘れて来てしまってな」
「…?」
ドレッドはすくみ肩で注意深くギム刑事の様子を伺うも、どうやら今この場で自分を逮捕するつもりではないことは見て悟れた。
「私が忘れ物をするのは今回が最初で最後だ。分かったらさっさと行け!」
「…!」
ドレッドはすくみ肩を解き、ゆっくりと背筋を伸ばしギム刑事の方向へ向かって歩きはじめた。
目線も合わせず何も言葉を発することなくギム刑事の真横を通り過ぎ去り、暗い港町に消えて行った。
ギム刑事もドレッドを振り返ることなく、その場で静かに目を瞑り背後の足音が闇の彼方に消えて行くのを背中で感じ取っていた。すると突然、
[ギム刑事、ギム刑事応答せよ]
「!」
ギム刑事は少し離れた場所に停めていたパトカーから鳴り響く無線の応答音に気付き急いで駆け寄り無線を手に取った。
「こちらギム刑事。ホシを見失いました。申し訳ございません」
[何!?了解した。ホシの行き先に目星はついているか?]
「…いえ、暗闇で皆目検討もつきません」
[…そうか、了解。全隊員に告ぐ、作戦は失敗。直ちに本部に帰還せよ]
「了解しました。申し訳ありません」
それから少しの時間を置き、ギム刑事も自分のパトカーに乗り込み夜の港町を去るのだった。
ドレッドが自宅マンションに着くと、エリカが元気よく出迎えた。
「あ、お兄ちゃんお帰りー」
「…」
ドレッドはそれに応えることはせず、乱暴にカバンを地面に放り投げソファにどっかりと腰を落とした。
「…お兄ちゃん、どうしたの?」
エリカは明らかに不機嫌な様子のドレッドに恐る恐る尋ねた。
「…なんでもねぇ」
「…そう。ご飯食べる?何がいい?」
「いらねぇ…」
「でも食べないと、確かお昼も食べてなかったよ?」
「いらねぇっつってんだろーが」
「…うん。ねぇ、何かお手伝いしようか?私なんでも」
突然ドレッドは堰を切った様に怒鳴り散らした。
「いちいちうるせぇ!!!ほっとけっつってんだよ!!だいたいテメェ、いつまで居やがるつもりだぁ??あぁ??」
「!!!」
突然大声を上げたドレッドに体中で驚きを見せるエリカ。
すぐにその表情は悲壮に満ち目にはうっすらと涙が浮かび始めた。
エリカは顔を伏せ咄嗟に部屋を出て行く。
「あっ!お、おい!」
ドレッドが我に返った頃、既にエリカを乗せたエレベーターのドアは完全に閉まりきっていた。
やり場のない怒りを徐々に体に蔓延させていくドレッドは必然と震えを宿し始める。
「…ちっくしょぉぉおお!!!」
”ガシャン”
ドレッドはテーブルの上にあったガラス製の灰皿を全力で正面のガラス窓に叩きつけ、再びソファに腰を落とし苛立ちに身悶えるのだった。