”第5世界製核兵器”
オットロが5人に目的の商品名を聞くと、内3人が口を揃えた。
「俺ぁ、こいつを貰うぜ。商品No444、”第5世界製核兵器”だ!」
「私もだ!私もそれを希望する!」
「私もだ」
3人が希望したのは”第5世界製核兵器”と銘打つ決して穏やかは無い商品名だった。
「あらら~、お3人様共同じ商品をご希望ですねぇ~?えーっとこちらの商品は武器、兵器売り場の商品ですねぇ~」
3人の要望を聞いたオットロはポケットから携帯端末の様な機械を取り出し商品の情報を調べ始めた。
「ふん、やはりな。貴様ら2人もこの商品を目論むだろうと思っていたさ」
「その通りだ。これで国ひとつ分の軍事力だぜ!」
「…」
「あらー、この商品は残り在庫が1個ですねぇ~。困りましたねぇ~。でも皆さん随分と物騒なものが欲しいんですねぇ~」
<第5世界製核兵器>第6世界製核兵器(使用者は被爆しない核兵器)に改良を加え手の平サイズまで小型化した物。この2つの特色を融合したことにより目的至近距離での爆発が可能。
「オットロさん、どうか聞いてほしい。こんな物を悪党に売り捌いてしまっては我々の世界は終わりです。貴方方の世界のことはよく分かりませんが、もし今後も我々の星からお客を連れて来たいならどうかこの商品だけは私に譲ってもらいたい!」
「あぁ?んじゃあ何か?テメェならこの核兵器を正しく扱うって保証でもあるってのか?偽善者野郎が」
「何だと!?貴様、もう一度言ってみろ!!」
ギム刑事が怒涛の権幕でドレッドに差し迫り胸ぐらを掴む。
「やめて!離してあげて!」
難民少女のエリカがギム刑事の足にしがみつき困った表情で止めに入る。
「はいはい皆さん、落ち着いて下さい~。商品の購入は皆さんに等しく権利があります~。ここは公平にジャンケンで決めましょー!」
「ジャ、ジャンケン!?核兵器の所有者をジャンケンで決めるというのか?」
「はいー、公正公明、一番平等な決め方ですー。"運"が全てを左右するこのデパートアトランティスにて相応しい決め方でしょ~?ウフフ」
「…まぁ仕方無ぇな。出来れば腕ずくでもぎ取りてぇところだが、そこの姉ちゃんに腕を握り潰されるのはゴメンだぜ」
「…異論は無い」
「はーい、それでは皆様ご納得いただきましたところで早速、じゃーんけーんっ、ポイ!」
「!!」
「!!」
「…」
固唾を飲んだ一同が結果を静観した。
「おめでとうございますぅ~。それではこちらの商品”第5世界製核兵器”はギルティさんにてお買い求めいただきますぅ~!」
殺し屋のギルティは口角を上げ満足げな笑みを浮かべた。
「くっ、くそっ!」
「…っち」
「はい、それでは早速お買い上げに参りましょう~!」
悔しそうな2人をしり目にオットロは5人を建物の中に案内した。
相変わらず不思議な光景が広がる中、5人はオットロ案内の元、2階にある"兵器売り場"なる場所へ辿り着いた。
6人が次に目にしたのは軍事用品売り場の様な風景。
TV等で見慣れた武器の様な物が並ぶ中、およそ使い方が分からないような商品も多く並んでいる。
その商品ひとつひとつはやはり全て透明なカプセルで覆われたいた。
「はい、こちらですね。”商品No444、第5世界製核兵器”です~」
オットロが手を差し伸べた先の商品棚の上に陳列されていた手の平サイズ程の物体、それはミサイルの様な形をしていた。
そのミサイルの横には"3316エグゼ"と書かれた値札の様な物が置かれている。
「こ、これが核兵器?本当にこんな小さな物が?」
「はい~。ですが威力はとでも強大ですよ~」
(くそぉ!!何か方法は無いのか?こんな危険物をこのままおめおめと殺し屋なんかに渡す訳には…)
ギルティが不思議そうに商品を眺める横でギム刑事は奥歯を強く食いしばりながら己の中で葛藤を繰り広げていた。
「それでは購入の仕方を説明しますね~」
「!!」
ギム刑事の葛藤も虚しく無情にもオットロの淡々とした説明が続けられる。
「この透明なケースの上に手を置いて下さい~。そして"購入します"と唱えて下さい~。もし必要な分だけの"運"があればケースが消失して商品をそのままお受け取りになられます~」
それを聞いたギム刑事、そして麻薬犯のドレッドは少し腰を落として身構えた。
「あ!他のお2方、横取りや割り込みは厳禁で~」
「くっ…」
「…ちっ」
気付いたオットロは2人を言葉で静止する。
2人が観念した姿を目視した殺し屋のギルティはオットロの指示通りケースの上に手を置き唱えた。
「購入します」
すると間も無くしてケースが消え去りギルティはゆっくりとした動作でその小さな手のひらサイズの核兵器を手に取った。
「…」
特に何を発するわけでもなくギルティはその核兵器を胸ポケットの様な場所にしまい込んだ。
そしてギルティは自分のリストボードを取り出し、表示されていた"運"の値が購入分差し引かれていることを確認する。
ただただ静観することしかできない自分を歯がゆく思うギム刑事は悔しさに震えていた。
「はーい、お買い上げ誠にありがとうございます~!簡単でしょ~?是非有意義にご利用なさって下さいね~」
「…ふふん、そうだな。そうさせてもらう」
不敵な笑みを浮かべるギルティ。
「皆さん、だーいぶこのデパートアトランティスの勝手は分かってまいりましたか~?もし宜しければ各々お買い求めになられたい商品をご自分達でご購入いただいてもか構いませんよ~」
「はーい、じゃあ私は"調理器具売り場"に行きたーい!」
「ぼ、僕も、ちょっと買ってきます!」
「お気を付けて~」
子供2人が颯爽と場を離れ目的の場所へ駆け出して行った。
「…では私は他の連中が終わるまであちこち見学させてもらう。終わったら呼んでくれ」
「はーい。またお買い求めになられる場合は是非宜しくお願い致しますぅ~。これからもたっくさん"運"を貯めて下さいねぇ~」
ギルティもその場をゆっくりと去って行った。
残されたドレッドはギム刑事にゆっくり歩み寄り耳元に語りかけた。
「よぉ、どうすんだよ?あんなヤバそうな奴に核兵器取られちまってよ」
「くそぉ、何とかならないのか…」
次にドレッドはオットロの方向を向き問い掛けた。
「なぁ姉ちゃん、商品を使えるのは買った人間だけっつったな?もし仮に無理矢理横取りしたらどうなんだ?」
「そもそも商品は購入者以外の人間では効能を発動出来ません~。もし仮に購入者の意図に反して奪い購入者から一定の距離を離してしまった場合は購入商品の価値に応じたペナルティが降ってきますよ~」
「ペナルティ…?」
「はい、でも実際その様なことは今まで起こらなかったのでどの様なことが起こるかは不明ですが~」
「…こんなマンガみてーな世界だ、どんな災難が起こっても不思議じゃねーわな」
「ご本人の合意があればその限りではございません~」
再びギム刑事の耳元に近寄るドレッド。
「こりゃあ強奪って選は消えたな。まぁあの女が気まぐれでオレ達の国を破壊しねーことを祈るしかねぇ…」
「他の商品を見たが、太刀打ち出来そうなものは特に無かった。商品の金額としてもあの核兵器がダントツで高額だった。あの女が何を考えているかは皆目検討もつかんが、悔しいながらお前の言う通りだな…」
「あーあ、ちっくしょう。あれがありゃ独裁者にてもなれたかもしんねーのになぁ。仕方ねぇ、別のブツで我慢しとっか」
ギム刑事の元を離れエレベーターの方向へ歩き出すドレッド。
「貴様に渡らなかったのがせめてもの救いだな」
ギム刑事もその後を追ってエレベーターの方向へ歩き出し始めた。
「ふふふ~、これで今期の営業成績はバッチリィ~」
1人残ったオットロはその後ろ姿を笑顔で見送っていたのだった。