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ウィンの話を黙って聞いていたテオは、小さく言った。
「彼女を、このままにしておくのか」
ウィンは、顔をあげると微かに笑んだ。
「まさか。さすがに僕も、腹をくくらなけりゃならないだろう」
それまでの態度とは違って、力強くウィンは言った。その彼を、テオは目を細めて見た。
「お前もいずれケンドール侯爵として家を継ぐんだろ。しっかりしろよ」
「そっちこそ」
そうしてアディに軽く挨拶をすると、ウィンは二人から離れていった。
「フィル」
テオが、小さく呼ぶ。
「頼んだぞ」
その一言だけで通じたらしく、フィルは執事らしくひかえめに笑みを返す。
「かしこまりました」
「なんですの?」
アディが、小さく首をかしげた。するとフィルは、器用に片目を閉じて、人差し指を自分の口元にあてる。
「男同士の秘密。アディには教えてあげない」
仲間外れにされたようでアディは少しだけふくれっ面をするが、フィルとテオの間には、アディには入り込めない何かがあることは常に感じていた。それはきっと、幼い頃から一緒に苦難を乗り越えてきた二人だからこそ持つことのできる何かなのだろう。
「くやしいけれど、フィルが相手では仕方ないわね。許して差し上げますわ」
わざと尊大な態度で言うと、フィルがこそっとアディの耳元で囁いた。
「じゃあ、今度テオに内緒で、僕と二人だけの秘密、作ってみる?」
「へ?」
「フィル!」
テオに鋭い声をかけられたフィルはすました笑顔を作ると、優雅に一礼して大広間を退出していった。
☆
その夜、寝室のベッドの上でアディは、クッションを抱きしめながらウィンの言葉を思い出していた。
「どうした」
あとからベッドへとやってきたテオが、思いつめたような顔のアディの隣に座る。
「ポーレットは、幸せになれるでしょうか……」
ぽつり、とアディが呟くと、テオがその体を背後からそっと抱きしめた。
「そうだな。せっかく王太子の閨に忍び込んでも夜這いは失敗。王太子妃にもなれずに家に返されるなんて、とてもじゃないが幸せとは言えないだろうな。おかげで本人は人に合わせる顔もなくて別荘にこもりきりだ」
「そうではなくて! 暗殺未遂ですよ!? もっと罪が……え?」
怒りながら振り向いたアディは、テオがにやりと微笑んだのを見た。
「夜這い……?」
「ああ。王宮の衛兵とネイラー男爵には、俺のベッドに彼女が裸で忍び込んできたので、王太子妃になるには慎みが足りないとして放り出した、と言っておいた」
アディは、含むように笑うテオをまじまじと見つめる。
「では、ポーレットは?」
「王家から令嬢失格の烙印がついたんだ。もうどこを探したって、彼女を娶る家など見つからないだろうな。あとは、ウィンがうまくやるだろう。せめてそれくらいの男気は見せてくれないと」
絶句したままの妻に、テオは笑った。
「俺に、何か言うことは?」
「……ありがとうございます、殿下」
絞り出すように礼を言うと、テオが満足したように口の端をあげる。
本当は心から感謝しているのだが、テオがこの態度だから素直に礼を言う気にならないのだと、アディはむくれる。
その様子を面白そうに見て、テオは視線をそらした。
「彼女だって、あんなナイフ一本で衛兵に守られた王太子を本気で殺せるとは思っていなかっただろうし、捕まれば自分がどうなるかもわかっていただろう。それでも、ウィンのためにそうせずにはいられなかったんだ。だから、彼女を幸せにできるのはウィンしかいないし……彼自身もそれをわかっていた。だからきっと、大丈夫だろう」
呟くように言った横顔を、アディはじっと見つめる。




