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「アディ」
耳元に口を寄せると、テオは小さく言った。
「君に紹介したい人がいる。来てくれ」
「はい」
雰囲気の変わった夫の声を不思議に思いつつ、アディはその視線を追う。すると、おどおどとあたりを見回しながら、やはり緊張した面持ちの青年がこちらへ向かってくるところだった。二人の視線に気づいて、青年はなんとか笑顔らしきものを作る。
「やあ。結婚、おめでとう。テオ」
「ありがとう。君も元気そうでなによりだ、ウィン」
その名前を聞いて、アディも緊張する。
では、この青年がウィン――ウィンフレッド・ケンドール。テオフィルスのいとこだ。
ポーレットを使って、テオの暗殺を謀った男。アディはそう思っていたが、結局直接的な証拠がないことから、ウィンフレッドの罪は不問とされていた。
知らず、アディの目がきつくなる。その様子に気づいたのか、ウィンがびくりと肩をすくめて苦笑した。
「そんな目でみないでくれ。僕は、テオをどうにかしようなんて思ってないよ」
「当然ですわ」
「僕じゃないんだ」
ウィンは、少しだけうつむいた。
「テオを暗殺するためにポーレットが王宮にあがったなんて、僕は、知らなかった」
その言葉が嘘か本当かはアディには判断できなかったが、どこか寂し気なウィンの表情が印象的だった。
「あなたは、ポーレットとはどういうご関係なんですか?」
そういえば、ポーレットはウィンのことを慕っていたが、彼がポーレットをどう思っているのだろう。アディは、目の前の青年をしげしげと見つめた。
アディの問いに、ウィンが顔をあげる。
「彼女とは、あるサロンで知り合ったんだ」
そう話すウィンの目は、どこか遠くを見ていた。
「おとなしい子だな、って思った。いつでも控えめで、穏やかに笑っている……なのに話してみるととても博識で、なのにそれを鼻にかけることなく、つたない僕の話を楽しそうに聞いてくれた。他の連中みたいに媚びたりしないで、ただそこにいて一緒に話をしてくれた。……彼女といると、僕は、本当に楽しかったし、彼女もそう言ってくれたんだ」
ぼそぼそと続けるウィンを、二人は黙って見つめる。
「そんな毎日が続けばいいと思ってた。なのに、彼女は何も言わずに王宮へと行ってしまった。僕は、裏切られたと思ったんだ」
「そんなことは……!」
口を挟みかけたアディを、テオが止める。黙ったアディを見つめて、またウィンは話し始めた。
「首尾よくテオを殺すことができたら、僕の正妻になれる、という条件だったんだそうだ。王太子妃となれば、テオを殺すことなど簡単にできるだろうし、そうなったら次に王太子となった僕と再婚できるから、と、言いくるめられたらしい」
王太子が亡くなればもちろんその王太子妃も廃嫡となるが、次の王太子が望めばその妃との再婚は可能だ。
ポーレットの叔父を含む彼の親族数名が、今回の暗殺計画に関わっていた。その叔父は領地をすべて没収となり爵位もはく奪、他の関係者も同じ処遇を受けた。
ネイラー男爵本人は暗殺の事は知らなかったと言い張り、実際証拠もなかったので領地の減封だけですんだ。その言葉を本当だったと思うのは、アディの願望なのかもしれないが。
男爵家の本家は、仲のいい大家族と評判だった。




