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「何度かあなたを見に行きました。街の方々と仲がいいのですね。いつでも笑顔でくるくるとよく動いて……どれだけ見ていても飽きることがありませんでした。伯爵家の事情と街での評判をあわせて、あなたの疑いもすぐに晴れました」
ただの出稼ぎのつもりだったのに、実は王太子暗殺の容疑をかけられていたことを、初めてアディは知った。
「誰かを妻として隣に置いておくのなら、人形のようにつまらない女よりも、あなたみたいに次に何をやらかすかわからない女の方が面白いではないですか」
「そ、そんな理由で私を王太子妃の候補に選んだのですか?」
おてんばな所業の数々を見られてただけでも恥ずかしいのに、それが理由と言われればアディは心中複雑にならざるを得ない。
「十分な理由です。それに」
ふ、とルースの瞳の色が柔らかくなった。
「それになんとなく……あなたは、私を裏切らない気がしたんです。そんな風に思えた人は、あなたが初めてでした」
「……初めてじゃないですよ」
穏やかに言ったアディを、ルースは静かに見下ろす。
「幼かったあなたを今までこの離宮で守ろうとした陛下は、あなたを裏切ることなどしないでしょう。フィルだって、信頼し合っているからこそ身代わりとなりえたのではないのですか? あなたにはもうちゃんと、信じられる誰かがいるのですよ」
ルースの目が大きく見開かれた。頬に置かれた手に、アディはそっと自分の手を添える。
「もちろん、私も絶対に殿下のことを裏切りません。あなたを……愛していますから」
ルースは、自分の手の中にあるアディの頬が、急速に熱を持つのを感じた。
「アデライード」
ルースはアディから離れてひざまずき、その手を取った。
「私が選んだ花嫁は、最初からあなただけです。これから先も、あなた以外の妃を迎えるつもりはありません。どうか、私と結婚してください」
想い続けることは、もうできないと思っていた。諦めるつもりだった。けれど、これからも彼を愛し続けることを許された喜びに、ぎゅ、とアディの胸が痛くなる。
うっかり口を開けたら涙も出てきそうな気がして、アディが言葉を詰まらせた。
短い沈黙が二人の間に落ちる。すると、返事が返ってこないことにルースがむっとした表情になった。
「俺にこれだけのことを言わせたんだ。まさか、嫌とは言わないよな」
口調を変えて、ルースは立ち上がった。
アイスブルーの瞳に柔らかそうな金の髪。大きな手も変わらないけれど、雰囲気の違う彼はもう執事ではなかった。
「そ、それは、もちろん……」
「もちろん、何?」
そう言って、ルースは、ちゅ、と音をたててアディの頬に口づけた。
「っ!」
「もう一度言えよ。さっき言った言葉」
「さっき?」
「愛しているとかなんとか聞いた気がするが?」
ルースは意地の悪い笑みを浮かべて、瞬時に真っ赤な顔になったアディを見下ろす。




