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「そ、それは……見てたのですか?!」
「あれは実に見事な蹴り技でした」
くすくすと、ルースが笑う。
「最初は信じられませんでしたよ。病弱な深層のご令嬢だと思い込んでいた方が、野菜を値切ったり教会で子供たちと泥まみれになって遊んだり……アレが本当に伯爵令嬢なのかと、フィルと何度も確認しました」
「は、はあ……」
アディは真っ赤になって顔を片手で覆った。
そう言えばあの頃、クレムはよく兄が帰ってきていると言っていた。王宮からの知人とは、ルースの事だったのだ。
「そ、それならなおさら、なんでそんな様子をみていながら、私を王太子妃候補にしたのですか?」
ルースは、目を細めてアディを見つめた。
「もともと王太子妃候補を募るというのは建前で、実は王宮内にいる反王太子派をあぶりだすための作戦でした」
「そうなのですか?」
「ええ。王太子は、もう何年も、その命を狙われてきたことはすでにご存じですね」
「はい」
真剣な顔で聞くアディを見ながら、ルースは他人事のように淡々と続ける。
「王妃が毒殺された当初、犯人が王宮の中にいることはわかっていたのですが、それが誰なのか特定ができませんでした。そこで国王は、次に狙われるであろう幼い王太子をこの離宮に隔離して信頼できる必要最低限の使用人だけを残し、彼を人の目から遠ざけたのです」
そして、彼は病弱で先は長くないと噂を流したのだ。わざわざ命を狙わなくても、もうすぐ死ぬと思わせるために。
「それでもちょくちょく暗殺騒ぎはありました。私は数年前から殿下の執事として働くことにして、王宮内にくまなく目を光らせていたのです」
「それで、フィルを身代わりに?」
「ええ。フィルは、私が幼い頃からの侍従です。背格好がよく似ていたので、私の身代わりにずっとベッドに突っ込んでおいて来客などの対応をさせていました。あの調子でちょくちょく抜け出すのが困りものですが」
あの部屋があれほどに薄暗くされていたのは、ベッドの中にいるのが王太子本人でないことをばれないようにするためだったのだ。
「時間をかけて犯人をある程度まではしぼりこんだものの、どうしても中心人物が割り出せない。それで、王太子妃を選ぶ、と言って、彼らをこちらの手の内に引き入れて油断させる作戦をたてたのです。疑いがあったのは、ネイラー男爵家の者とメイスフィール公爵の親族でした。ちょうどその両方に、年頃の令嬢がいたものですから。結局こちらの狙い通り尻尾をだして、すべて捕まえることができました」
「私は、別に王太子妃を望んだわけではありませんよ?」
「確か、女官を希望されたのでしたね」
「もしかして、私も王太子暗殺の容疑をかけられていたのでしょうか」
不安そうに言ったアディを、ルースは目を細めて見つめる。
「最初は、そうでした。モントクローゼス伯爵は、あなたほどではないにしろあまり社交界に頻繁に現れる方ではないので、その娘が急に王宮へ入りたいと言い出したとなれば、当然疑いの目も向くでしょう」
それを聞いて緊張しているアディの頬に、ルースは片手で触れた。




