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「あの、でもっ、けがはなかったわよ! ほら、私は元気だから大丈夫!」
あまりのポーレットの剣幕に、とっさにアディは妙な答えを返してしまう。
呆然として力の抜けたポーレットから手を離し、ルースがその手にあったナイフをとりあげた。
「あなたを王太子妃にしたい方は、あなた以外はすべて邪魔者なのですよ」
「そんな……まさかアデライードまで……そんなこと、一言も……」
ようやくポーレットは、自分がなにに巻き込まれているのかを悟った。
「わたくしは……なんてことを……」
ぬぐうこともせずにベッドに涙を落とし続けるポーレットに、アディはかける言葉がみつからない。
ここまでくればさすがのアディにもわかる。ポーレットの想い人は、ウィンフレッドだったのだ。
「あなたには、聞きたいことがたくさんあります」
ルースが背後へ声をかけると、カーテンの陰にいた衛兵が三人、ポーレットのまわりに集まる。そのうちの二人に、アディは見覚えがあった。
エレオノーラとポーレットについていた、専属の執事だ。
ルースは胸のポケットからハンカチを出すと、ポーレットの口に巻いた。
「やめて! そんなことしなくてもポーレットは騒いだりしないわ!」
脱力したポーレットの姿は、もう反抗する気などないのは明白だ。近寄ろうとしたアディを片手で制して、ルースはポーレットを連れて行くように衛兵に命じた。
「ポーレットにひどいことしないで!」
「彼女のためです」
「何がよ! あんなひどいこと……!」
「ああでもしないと、彼女は自ら命を絶ちかねませんから」
「……え?」
乱れたベッドと天蓋を直しながら、ルースは淡々と言った。
「自分の口から、ウィンフレッドの名が出るくらいなら、きっと彼女はそうするでしょう」
自分の命と引き換えにしてまで、彼女に王太子を暗殺させようとしたウィンフレッドを守ろうとするのか。
ポーレットがそれほどに激しい想いを抱えていたことに、アディは胸を締め付けられる。
「どうして、そこまで……」
いつも穏やかで、頬を染めて『好きなのよ』と微笑んだポーレット。その彼女が、ナイフを片手に王太子を殺そうとしたのだ。
ベッドメイクを終えたルースは、呆然としたままのアディをゆっくりと振り返る。
「アデライード様。こちらへ」
ポーレットの事を考えていたアディは、ルースに呼ばれるままにふらふらとおとなしく側へと寄っていく。と、突然、ルースがアディをそのベッドへと押し倒した。
「な……!」
仰向けになったアディの上に、いきなりルースがのしかかる。艶ごとを連想させるその体制に真っ赤になったアディの両手を握って、ルースはアディを抑え込んだまま言った。
「あなたも……殿下がいらっしゃらなくて落胆しましたか?」
薄闇の中でアディを見下ろす瞳は、射抜くような強い光を放っていた。怒りすら感じるその瞳にアディはぞくりと背筋が冷たくなる。それが暗殺の疑いではなく、単なる嫉妬から来る表情だとはアディは知らない。
「私は、暗殺など……!」
「私は夜這いのかけ方など、教えたつもりはありませんが」
「は? ……よ、夜這い?! 違います!」
予想外の言葉に、あわててアディは反論する。
「私はただ、ポーレットを追いかけてきただけです! いつかあなたが言ったじゃないですか! 夜中にうろうろしてると衛兵につかまるって!」
力いっぱい叫んだアディの言葉に、ルースは片方の眉をあげた。
「おや? 王太子妃になるために、殿下を身体でたらしこもうとしたのではないのですか?」
「たらしこむ!? な……何言ってるんですか!! そんなわけないじゃないですか!」
「そうですか……」
怒鳴るアディを、ルースは、じ、と見つめている。己の誤解を悟ったその目は、もういつものように薄いアイスブルーの色を取り戻していた。
「では、このまま私が抱いてもよろしいですか?」




