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- 3 -

 スーキーが止める間もなく、アディはそのごろつきに飛び蹴りを食らわせていた。

「うわああ!?」

 不意打ちの攻撃に、男は体勢を崩して道にごろごろと転がる。がつん、と壁に頭を打ち付けて、男の気が遠くなった。


「早く!」

 そのすきにアディは、少年の手を素早くとって一目散に逃げだした。

「ま、まて……」

 眩暈を堪えながら男が立ち上がった時には、すでにアディの姿も少年の姿も見えなかった。


  ☆


 広場からかなり離れたところでようやく足を止めると、二人はその場に座り込んで息を整える。死に物狂いで走ってきたせいで男はまけたが、二人は言葉も発することができないほどに息をきらしていた。


 なんとか先に息を整えると少年は、自分の体のほこりを軽く払って姿勢を正し、アディにぶすりとした顔を向けた。


「お前さ……あんまり無茶すんなよ」

「なによ、その言いぐさは。せっかく助けてあげたのに」

「いつも教会の司祭様に言われているだろ。お前も一応年ごろの女なんだからおとなしくしろって。それじゃいつまでたっても嫁の貰い手なんかないぞ」

「し、司祭様には黙っていてね。それに、助かったんだからいいじゃない」

 二人は、同じ町の教会に通う幼なじみだ。


「何より、女が飛び蹴りなんて、ありえないだろう。これだから庶民は……」

「失礼ね。だいたい、なんであんなのに絡まれていたのよ、クレム」

 クレムと呼ばれた年上の少年は、不機嫌を隠そうともしないでアディを見つめている。


 少し憂いを帯びたその顔は、他の女性が見たら一様にうっとりするであろう魅力を含んでいた。しかし残念ながら、アディは彼に全然興味がなかったので、見つめあっていても何とも思わなかった。


 ほこりのついた金髪をかき上げながら、クレムはため息混じりに言った。

「こっちが聞きたいよ。急になれなれしく話しかけてきたと思ったらこれを取られそうになって……」

 クレムは、大事そうに持っていた紙の袋をそっと開けて見せた。そこには、この街の名物の焼き菓子が入っている。

「ビスコティ?」

 そういえば彼が絡まれていたのは、この街で一番ビスコティが有名な店だったことを、アディは思い出す。

「ああ」

「そんななりで一人で歩いているから、なにか高価なものだと思われたんじゃない?」


 彼は見た目の通り生粋の貴族、この街の子爵の次男坊だ。上品な服装も、今はすっかりほこりにまみれてしまっている。いつもなら執事か使用人がついているのに、今日は珍しく一人だ。

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