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イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる  作者: 和泉 利依
第四章

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「アデライード様がこの離宮にいらした時を、よく覚えておりますよ。なんと可愛らしいお嬢様がいらっしゃったのかと、嬉しくなったものです。王太子殿下も、アデライード様が王太子妃として選ばれたのなら、さぞお喜びになるでしょう」

 その言葉で、はっとアディは思い出す。


 そうだ。自分は、王太子妃となるためにここへきているのだ。


 浮かれていた気分がみるみるひいて、体が冷たくなっていく。ここにいる間、自分が考えていいのは王太子のことだけだ。

 アディは、いつの間にかルースのことばかり考えている自分に気づいてしまった。


「あの、マルセラはテオフィルス様にお会いしたことがありますか?」

 心に浮かんだ顔を振り払うようにアディは、無理やり意識を王太子へと向けた。唐突な質問に、マルセラは目を丸くする。

「そうですね。……何度かは」

「どのような方なのでしょう。私もこちらに来てから一度、天蓋のレース越しにしかお会いしていないので」

 マルセラは、少し考え込むようにしてから言った。


「お寂しい方です。窮屈な生活の中で、信じられる方も少なく……せめて、自由に散策くらいできるようになるとよいのですけれど」

 やはり、ルースやフィルの言っていた通り、王太子は孤独なのだろう。


「フィルも、同じことを言っていました。それに私にまで、この王宮にいる間は、誰も信じてはいけない、と」

「フィルをご存じなのですか?」

 意外なことを聞いたように、マルセラが目を見開いた。


「存じている、というほどでもありませんけれど、先ほども一緒に話をしておりました。そういえば、フィルはどういった方なのでしょうか?」

 何気なく聞くと、マルセラはふいっと視線をそらした。


「お知り合いになったのでしたら、いずれ本人が話すでしょう。あの子は嘘をつくような子ではないので、いつかお知りになることができると思います。……では、私はこれで失礼しますね」

 いつの間にか二人は、アディの部屋の前まで来ていた。


「ありがとうございました」

「いえ。……アデライード様」

「はい?」

 少しためらってから、マルセラは言った。


「ルースは、今はあなたの専属執事なのでしたわね」

「はい」

「あの通りの方ですけれど……どうか、よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げるマルセラに、アディは慌てて言った。


「いえ、こちらこそ彼にはいつもお世話になっていて……」

「ルースにあんな顔をさせることのできるお方は、そういないと思います。きっと彼にとって、あなたは特別な方なのでしょう」


「私は……」

 言葉に詰まったアディを見て、マルセラははっと気づいたように言った。

「アデライード様のお立場も考えず、差し出がましいことを申しました。お許しください」


 どうやら思ったよりマルセラは、ルースに対して強い感情を持っているようだ。確かにあんな性格を知っていれば、人付き合いをうまくやっていけるか心配にはなるだろう。

 そうやってマルセラがルースの事を心配する気持ちを、アディは愛おしいと感じた。

 アディはそっと彼女の手を取ると、その瞳を見つめる。


「もしも私が王太子妃になることができましたら、あなたやルースと共に、王太子殿下を支えていきたいと思います。その時はよろしくお願いしますね」

 微笑むアディに、マルセラは一瞬目を丸くしてから、はい、と顔をほころばせて答えた。






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