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「そういえば」
くすくすと、マルセラは何かを思い出して笑った。
「モントクローゼス様がいらっしゃった日、彼がひどく落ち込んでおりましてね」
「落ち込む? ルースがですか?」
「ええ」
一体どんな理由なら、あのルースが落ち込むのだろうか。
「モントクローゼス様のお部屋に、ドレスやアクセサリーが用意してありましたでしょう」
「はい」
アディは、あの時の事を思い出して眉をひそめた。馬鹿にされて悔しかったアディは、いまだに用意されていたそれらには一度も手をつけていない。
「あれは全て、ルース自身が用意したものなんですのよ」
「……え?」
それは、アディにとって初耳だった。
「あなた様の金の髪に合わせて、似合う色をあれでもないこれでもないと見繕って。私が手を貸そうとしても、自分がやるから、と手伝わせてはくれませんでした。きっと喜んでもらえるだろうと、あなた様が来るのをうきうきと楽しみにしていたんですよ?」
(うきうき? ルースが?)
意外なことを聞いて、アディは言葉を失った。
「それが、思ったほどにはモントクローゼス様に受け入れてもらえなかったようで、ひどく落ち込んでおりましたの」
「そんなこと……まったく存じ上げませんでしたわ……」
では、ドレスはいらないと言った時に急に不機嫌になったように見えたのは、そのせいだったのか、とアディはようやく飲み込めた。
だが、そんなことを知らなかったあの時点では、ただ田舎者と馬鹿にされたようで腹立たしかっただけだ。ルースがそんな風に思ってくれていると知っていたら……
アディは、一つため息をついた。
「ルースには、悪いことをしてしまったのですね。彼がエレオノーラやポーレットのもとにいたのなら、きっと彼女たちが喜ぶ笑顔が見られたことでしょう」
「いえ、ドレスなどをご用意させていただいたのは、モントクローゼス様だけですわ」
「私だけ? それは、私の持ち物が一番みすぼらしかったとか……」
顔色を曇らせたアディに、あわててマルセラは否定をした。
「まさか! 違いますよ、そうではなくて……いえ」
大げさに自分の口元に手をあてて、マルセラは言った。
「少し、しゃべりすぎたようです。私が言ったことは、ルースには内緒にしてくださいましね、モントクローゼス様」
その様子を見て、アディは微笑む。
「はい。あの、アデライードで結構です」
マルセラも笑顔で、はい、と言った。




