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彼女の美しさは、ただ顔かたちが美しいだけではない。穏やかでありながら芯の通った強さもうかがえ、さらに内面からにじみ出る色気も含んでいた。もう二十歳の大人なのだから、といえばそれまでだが、アディは、自分が二十歳になった時に彼女と同じ落ち着きを持てる自信はなかった。
「でも、ごめんなさいね。わたくしこれから、わたくしの侍女と午前中の講義の復習をする約束なの」
本当に残念そうな顔で、ポーレットが言った。
「先のお約束があるなら仕方ないわね。ぜひまたご一緒しましょう」
「ええ、もちろん。そういえばわたくしたち、勉強ばかりで、こんな風にお顔を合わせることなどありませんでしたわね」
はにかみながら言ったポーレットに、アディも笑んだ。
「そうね。いつも怖い執事が目を光らせていて、のんきにおしゃべりなんかできませんもの」
「それは、アデライードだけですわ。ルースは、わたくしたちにはとてもお優しいですわよ」
「ああ、やっぱり……」
そう思っているのは、アディの勘違いではなかったのだ。
げんなりしたアディを見ながら、ポーレットは恥ずかしそうにうつむく。
「わたくし、本当はずっと、アデライードやエレオノーラともっとお話をしたいと思っていましたの。そんな風に思われたら、アデライードはお嫌かしら?」
ぱっと、アディの顔が笑顔になる。
「そんなことないわ! だって、私もずっと、お話したいと思っていましたもの」
「そう言ってもらえて、嬉しいわ」
頬を染めて、ポーレットは微笑む。
「いずれわたくしたちの中から誰か一人が王太子妃となりますけれど、誰が選ばれても、ずっとわたくしとお友達でいてくださいね」
いずれ王太子妃と妾妃という立場になるのかもしれない。けれどアディは今のところ、彼女たちのことが嫌いではなかった。むしろ、もっと話をしてみたいと思うくらいには、好感を持っていたのだ。
「私こそ、そうであればいいと願ってましたわ」
「ありがとう。では、またあとで」
おっとりと挨拶をして、ポーレットも離宮へと戻っていった。
ポーレットは、姉のいないアディにとって理想の女性像のうちの一人だ。いつかはあんなに素敵な女性になれたら、と、無理と思いつつも、時々憧れの目を向けてしまう。
そのポーレットにそんな風に言われて、アディは先ほどまでの憂鬱を忘れてにこにこと広い庭に目を向けた。
広大な王宮の敷地内には、いくつもの森や噴水があった。
キリリシア王国のあたりが戦乱の世であったのは、はるか何世紀も前の事だ。初代ウダリ王がキリリシア王国を建国して以来一度も戦火に巻き込まれたことはなく、穏やかな気候にも恵まれたこの国は、近隣の国と比べても今が文化の最盛期ともいわれる華やかさを誇っている。
アディが眺めている噴水の一つをとっても、神話に由来した繊細な彫刻が施され、きれいな水が絶え間なく流れ落ちていた。
しばらくその噴水を眺めてからアディは、一番近くにあった水路にそって歩き始めた。そして何気なくそこにあった飛び石を踏んだ瞬間、はっとして足を引いた。おそるおそるまた足を乗せると、しゃらんと鈴を鳴らしたような音がする。
「まあ」




