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 街は活気に満ちていた。

 キリリシア王国の地方都市、ロザーナの繁華街は、今日もさわやかな朝を迎えていた。いくつもの露店が並ぶ大通りは、にぎやかに人々が行きかう。


 そんな大通りの端の方で年頃の少女が二人、店に並んだ野菜を真剣に見ている。

「お嬢様、キャベツがあります! 新物ですよ!」

 ブラウンの髪を三つ編みにした若い少女が嬉しそうに声をあげて、一つを手に取った。

 緑色につやつやと光るそれは、こぶりながらたっぷり水気をふくんでいかにもおいしそうだ。それを、同じ歳くらいの少女が、値踏みするように手にする。


 その少女は、手にした野菜をよく見ようと、明るい金色の髪を隠していたフードを頭からはずした。白い肌にほんのりとバラ色をした頬があらわれる。

 大きな目をした可愛らしい、年のころは十六、七くらいの少女だ。赤く色づいた唇で、彼女も嬉しそうに笑った。


「まあ、おいしそう。柔らかいし、色つやもいいわね。でも、まだ高いわ。もう少しすれば旬になって落ち着くから、今日は我慢しましょう」

「……そうですか……」

 声をあげた少女は、かごに戻されるキャベツを残念そうに見つめた。気を取り直すように、お嬢様と呼ばれた少女が顔をあげる。


「それよりもスーキー、今日はかぶが安いわよ。これでスープを作りましょう」

「かぶ、ですか」

 スーキーは、微妙な顔つきになった。


 かぶのスープは嫌いじゃない。けれど、こう毎日毎日かぶばかり続くと、さすがに飽きてくる。なにせ中味は肉の一片も入らず、本当にかぶだけなのだ。

 スーキーの表情を面白がるように、もう一人の少女―――アディは言った。


「かぶの時期も、もう終わりですもの。それに、今日のスープにはソーセージを入れるわ」

「ソーセージ? どうしたのですか?」

「ランディのバイト代。肉屋の帳簿付けしたら、現物支給でくれたのよ」

 ランディは、アディの弟だ。頭脳明晰な彼にとっては、小さな商店の帳簿付けなど朝飯前だろう。


「さすがですね、ランドルフ様」

 ぱちぱちとスーキーが手を叩いた時、その店の店主が二人に気づいて声をかけた。


「どうだい、アディ。今日のキャベツはいいだろう」

「ええ、とても見事ね。私にはもったいないから他の奥様に売って差し上げて? 私は、こっちのかぶを全部いただくわ」

 アディはそう言って、箱の中に数個入っているかぶを指さした。

「へえ、全部買ってくれるのかい?」

「ええ。もちろん、箱の底に入っているのまでね。半分腐っていたんじゃ、私の他には誰も買ったりしないわよ。だからまけてくれる?」

 それを聞いて、店主はがははと大声で笑った。

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