- 4 -
呼ばれて、アディは、はっと我に返った。ルースは、他の二人の執事と違って洗練されたリードをとりながらアディと踊っている。
「あなたが見るのは、私です」
ルースが、ぐい、とアディの腰を抱いた手に力をこめる。さらに体がふれあい、アディの動悸が早くなった。
(あら?)
熱くなる頬で、アディはふと、気がついた。
以前パーティーで他の男性とワルツを踊った時は、ここまで密着してはいなかったし、こんな風に指を絡めて繋ぐことはなかった。そう思い出して、アディは他の二人の様子をうかがう。
やはり、エレオノーラもポーレットも、アディたちほどはくっついてなかった。
また気もそぞろになったアディの耳元で、ルースは囁くように言った。
「ワルツは、相手との呼吸が大事になるのです。他の男など見ないで……私から、目を逸らさないでください」
ステップの指導をする時とはまた違う低い声に、アディはそっと視線をあげた。すると、笑みを含んで見下ろすルースと目があう。
「ふふ。暑いのですか?」
「え? いえ……」
「では、そのようにお顔が色づいているのは、私の見間違いですね」
(絶対、わかってやってる!)
からかわれているのがわかっても、アディには言い返すすべもない。その間にもルースは、巧みにアディをリードしてくるくると舞うように軽やかに踊る。くやしいが、ルースのワルツは文句のつけようもないほど見事だった。さすがは王太子の筆頭執事だと、アディでさえ感心せずにはいられない。
なぜかルースの意地悪は、アディのみに向けられていた。エレオノーラやポーレットが失敗などしても、アディほどには辛辣な言葉は出てこない。
「私、なにかルースの気に障るようなことでもいたしましたか?」
沈黙に耐えられなくなったアディが、その疑問をぶつけてみた。
「何故ですか?」
「あの、私ばかりいじ……熱心に指導されているようでしたので……」
そ、と声をひそめてアディが言った。慎ましい令嬢は、文句を言う時も控えめに言わなければならないのだ。
「私は、ただ優秀な王太子妃を選びたいだけですよ」
「優秀というなら、エレオノーラやポーレットの方がどれほどか優秀です。この上、私に厳しい指導をいただく理由などないのでは?」
上目遣いに睨んでみると、ルースはにやりと笑って、アディの腰を抱く手に力をこめた。少しだけ身をかがめて、アディの耳元にささやく。
「そうですね。あなたが一番魅力的で男心を誘うから、とは考えませんか?」
「……!」
予想もしない言葉に驚いたアディの足がからまって、ルースの足を思い切り踏んだ。
「す、すみません!」
「……アデライード様」
ため息をついたルースの長い指が、アディの細い腰のラインを、つ、と撫で上げる。その感触にアディは、思わず背筋を伸ばした。
「もっと落ち着いて。王太子妃になられるおつもりでしたら、何があっても決して動揺してはなりません。ほら、こうやって背筋を伸ばして」
今度は講師の口調でルースが言った。




