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「ああもう、こんなにがんばっても結局はエレオノーラかポーレットが王太子妃になるなら、どれだけ勉強したって無駄じゃない。さっさとどっちかに決めてくれないかしら」
家柄、財産、知識などなど、王太子妃として必要なものはたくさんあるだろうが、アディはそのどれにおいても、自分が他の二人に優っているものがあるとは思えなかった。
「え?」
すると、意外なことを聞いたようにエレオノーラが目を瞬いた。それを見たアディも目を丸くする。
「え? って……エレオノーラは早く決定して欲しいと思わないの?」
「ああ……そうね。別に決まれば決まったでいいし、このまま講義が続いても……悔しいけれどあの執事の講義はこのわたくしが聞くに値するだけの価値はあると思うし……」
素直に、ルースの講義が面白い、とは口にしないエレオノーラである。
珍しく煮え切らないエレオノーラに、アディとポーレットは顔を見合わせる。
「王太子妃になりたくないの?」
「……さあ。どうかしら」
どこか遠くを見る目でエレオノーラが言った。
「エレオノーラ?」
アディが言うと、エレオノーラは席を立った。
「わたくしも、部屋で勉強するわ。失礼」
「あ、うん……」
残されたアディとポーレットは、再び目を合わせる。
「エレオノーラ、どうかされたのかしら」
「さあ……でも彼女、初日には王太子妃にふさわしいのはわたくし! とか言ってたのに」
「そうですわよね」
二人は首を傾げた。
☆
「ターンはもっと軽く。首がふらふらしていますよ。もっと手先まで意識を集中して」
今日は、ワルツのレッスンだ。
一応、アディも社交界にデビューするときに、一通りのダンスは覚えた。だがその後、ろくに踊る機会もなかったために、久しぶりにダンスをしてみれば足取りも立ち姿もかなりおぼつかなくなっていた。
「足元ばかりみない。胸を張りなさい」
ルースの容赦ない声が頭上から落ちてくる。アディは、できるだけ胸を張るとステップを続けた。
「そうです。もっとこちらに体を預けて」
そう言って、ルースはアディを支えてターンをした。
もともとワルツは、密着度の高いダンスだ。執事とはいえ、こんな風に男性と接触したことのないアディは、目の前にあるルースの体を直視できず、視線の置き所がない。視線をさまよわせて、アディは他の二人を伺った。
アディたち三人は、それぞれの執事をパートナーにステップの確認をしていた。アディにルースがついたように、他の二人にも専属執事がついている。
エレオノーラを見れば、お日様色のドレスをひらめかせながら優雅に踊っていた。ポーレットも、はにかんで揺れる姿がやけに色っぽい。二人の姿は、可憐に舞う蝶のようだ。
その相手をしている執事たちは、ルースよりもがっしりとした体格で、まるで執事というよりは鍛えられた衛兵のようだった。そのせいか、ワルツを踊るステップもどこか角ばった動きになっている。なんだかそれがやけにかわいらしいとアディはついつい微笑んだ。
「どこを見ているのです、アデライード様」




