- 2 -
きつそうな性格に見えたエレオノーラだったが、意外なことに、アディが問題に詰まるたびに文句を言いながらも詳しく教えてくれている。その知識量は、ルースには及ばずとも、同年代のしかも女性という事を考えたら驚くべき豊富さだった。
くるくるとカールした髪は綺麗な金髪。アンバーの瞳はいつでも強い意志できらめいている。
どうやらエレオノーラは他人を見下して遠ざけているのではなく、行動や言葉に関して無駄が嫌いなだけのようだった。
アディは、恨めしげにエレオノーラをみあげる。
「ねえ、エレオノーラはどうやってこんなに覚えたの?」
今ではすっかり気楽に話しかけるようになったアディだが、最初はかなりおそるおそる声をかけた。けれど、相手の様子をうかがっていたのは三人とも同じだったようで、仲良く打ち解ける、とまではいかなくても、一緒にいるときはそれなりに会話が続くようになった。
それに、彼女たちが通常のパーティーで囁かれるようなゴシップや噂話を一切しないというところも、アディは気に入っていた。
王宮内での滞在中、三人が集まるのは講義やレッスンのときだけだ。食事も各自室でとるために、アディは王宮内で他の二人に会うことはなかった。
「むしろ、あなたはなぜその歳になるまでなにも覚えずに来たのか、そちらの方が不思議ね。一応領地を持つ伯爵家の一員でしょう? その首の上にある丸いものはできの悪い飾りなのかしら」
返事をしてくれるのは嬉しいが、エレオノーラの言葉の容赦なさはルースに匹敵する。アディは、さらにくじけそうになった。
「エレオノーラほどの才女は、キリリシアでもなかなかいらっしゃらなくてよ? きっとご幼少のころからとても熱心に勉学に励まれたのでしょうね」
いつものように、おっとりとポーレットが助け舟を出してくれる。
アディが愚痴って、エレオノーラに叱り飛ばされ、ポーレットがとりなす。この一週間でそんな流れができあがりつつあった。
ちらりとポーレットを見たエレオノーラは、つん、とそっぽを向いて言った。
「もちろんですわ。……所詮、女には必要ない知識だ、と父には言われましたけれど」
その言葉は、少しだけ寂しそうに聞こえた。
エレオノーラには、三人の兄がいる。彼女は、メイスフィール公爵にとって初めてできた愛娘だ。蝶よ花よと育てられたが、彼女自身は幼い頃から独立心が強く、女性としては残念なことに頭がよかった。地位に甘んじてろくに勉強もせずにのらりくらりと暮らしている兄たちの代わりに、どれほど自分が家を盛り立てる礎となりたかったことか。
けれど、キリリシアでは、女性が家の当主となることはできない。
「でも、勉強することをあきらめなかったのね。えらいわ、エレオノーラ」
アディが笑顔を浮かべて言うと、エレオノーラがむにっとアディの両方の頬をつまんだ。
「ナマイキですわ、アデライード。早く部屋にもどってその飾りにモーツ時代を詰め込みなさい」
「いたいいたいエレオノーラ」
エレオノーラの手から離れると、アディは山ほどの課題を手に立ち上がった。




