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次の日から、本格的な王太子妃教育が始まった。
講義の内容は、キリリシア王国の歴史に始まり、地理や語学など、様々な分野に及んでいた。特に、歴代の王族とその分家などの貴族についてのくだりは、あまり社交的でなかったアディにとっては初めて聞くような内容ばかりだった。
他にもマナーやダンスなどの実践の時間もあり、アディたちの毎日はめまぐるしく過ぎていった。
「ふざけないでください。アデライード様」
今日は、過去の王朝に関しての試験であった。アディの答案を持ったルースが、わざとらしくため息をつく。
扇を持つアディの手がぎりぎりと震えた。
ふざけてません!
そう口に出せたらどれほど気持ちのいい事か。だがアディはあくまで深窓のご令嬢だ。何を言われても今はおとなしく猫を被らねばならない。
「すみません。今日は少し、頭痛がして……」
こちらもわざとらしくため息をつく。
決してふざけているわけではない。数多くの似たような名前を見ていると、頭痛と共に強烈な眠気を誘われて覚えることができないだけだ。
「具合が悪いのですか」
「ええ。そうみたいですわ」
「失礼」
言うが早いか、ルースはアディの額に自分の額をピタリとつけた。
「!!」
「熱はないようですね。ああ」
ゆっくり体を起こしたルースは、真っ赤な顔になったアディを見下ろしてにやりと笑った。
「もしかして知恵熱というものでしょうか。頭を使う頻度の少ない方に現れるという……」
「ち……!」
叫びかけた声を、アディはようよう飲み込んだ。やはりルースは面白がっている。
「では、アデライード様には、こちらの分を」
すました顔で、ルースはアディに分厚い『課題』を渡す。
「あの……私の分だけ多くないですか?」
もちろん、エレオノーラにもポーレットにも同じように課題は出されているが、あきらかにアディの分とは厚さが違う。
「おや、何故だかおわかりになりませんか? でしたら、おわかりになるように誠心誠意、ご説明いたしましょうか」
「いえ、結構です……」
アディは涼し気に微笑んだルースから、しぶしぶ課題を受け取った。
「本日はここまでにいたします。明日はこの課題についての諮問をおこないますので、各自自習をおこたりませぬよう」
そう言ってルースは軽く礼をすると、部屋から出て行った。アディは、大きく息を吐きながら机に突っ伏す。
「こんなに覚えるの、無理いいい」
「泣き言を言っている間に、年代の一つでも記憶なさったらいかが?」
愚痴を言ったアディに、エレオノーラの冷たい言葉が落ちてくる。
王宮にきて一週間になる。その間に、アディも次第にエレオノーラやポーレットと話すようになってきた。




