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「確かに綺麗な人だったわ。ちょっときつそうだったけれど、女性には珍しく知識量も豊富そうだったし。今すぐ王太子妃となられても問題ないんじゃないのかしら」
「もうおひと方は、どなたですの?」
「ネイラー男爵令嬢ですって。でもエレオノーラ様と違って、とてもやわらかい雰囲気の方だったわ」
「ネイラー男爵令嬢で独身といえば……ポーレット様、といいましたかしら。確か二十歳になられる方ですね。エレオノーラ様と同様お嫁入りの口には困らないはずですが、なぜかまだご結婚もせず婚約者もいらっしゃらないはずです」
「優しそうな方だったわ。いかにも淑女の鑑といった風情で、彼女が王太子妃となって玉座の隣りにつつましく座っているところが簡単に目に浮かぶような方。……それにしても詳しいのね、スーキー。いつの間にそんな情報を仕入れてきたのよ」
「つまらないとお嬢様がおっしゃっているパーティーで、ですわ。招待されたご令嬢様たちの侍女はみんな同じ部屋で待機するので、そこでいろいろと裏話を。お嬢様があまりパーティーにいらっしゃらないので私も数度お話に加わったくらいですが、最低限これくらいはご存じでないと。だいたいお嬢様は……」
よどみない口調で説教を続けるスーキーは、こう見えてアディよりも年下である。
スーキーは、もともと教会の修道女だった。まだ年若かった彼女はくるくるとよく働くと評判で、それを知ったアディの父親が、歳の近いアディの侍女として家に引き取ったのだ。次々と侍女やメイドがやめていく中で、スーキーは最後までアディの側を離れなかった。
「それよりも、問題はあの執事よ!」
放っておくと延々とスーキーの説教は続くので、アディはあわてて口をはさんだ。
「ルースさんですよね。素敵な方でしたよねえ」
思い出したのか、とろんとした目つきになったスーキーを、アディは、き、と睨む。
「素敵?! どこが?!」
「ハンサムだし顔ちっちゃかったし、特にあのちょっとだけ口元を緩める笑顔がクールで最高です」
「……よく見てるのね、スーキー。でも、見た目に騙されちゃだめよ!」
アディは、片手を握りしめて言った。
「あの口の悪さは、絶対性格歪んでいるわ! 顔の良さに騙されちゃダメ! なんであんなのが殿下の信頼を受けているのかしら。もしや、殿下騙されているんじゃ……」
「なにかあったのですか?」
「あったもなにも……! 厭味ったらしい口調でちくちくといじめられたわよ!」
「あんな穏やかそうな人が、ですか?」
半信半疑のスーキーの様子に、アディは、顔の良さがいかに人の心を鈍らせるかを痛感した。なにより、素の自分を隠していたために、嫌味の連発に一言も言い返せなかったのがアディにとってはかなりのストレスだったのだ。
アディが興奮している様子を見て、スーキーはお茶でも用意しようと部屋を出た。しかたなくアディも、勉強しようと机に向かう。
だが、アディは頭を使うことは苦手であった。キリリシア史を二ページ読んだところですでに本を閉じたくなる。くじけそうになるたびにアディは、冷たいルースの目を思い出してまた猛然とペンをとるのだった。
第二章終わり―!
次からは、いろいろと事件が。




