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「ここに来るまでにこちらのお庭を拝見してまいりましたが、季節の花々が咲き乱れていてとても素晴らしいです。特に中庭の花壇にはネモフィラがたくさん咲いていて、まるで青い絨毯のようでした」
アディは、先ほど見た窓からの光景を思い出しながら微笑んだ。
この部屋は暗すぎる。どれほど元気な人間であっても、こんなにどんよりとした空気の中にいたら、それだけで具合など悪くなってしまうだろう。
名前のつくような病気でふせっているわけではないと聞いている。今の王太子に必要なのは、新鮮な空気と明るい光だ。もし日の光に弱いというなら、木陰でも構わない。
明るく美しい景色を、アディは王太子と一緒に見たいと思ったのだ。
ふ、とアディの耳に小さい吐息が聞こえた。まるで、笑いが漏れたかのような。
それが天蓋の中から漏れたのか、それとも目の前の執事が漏らしたものなのかはわからなかった。
「アデライード様は、おもしろいことをおっしゃるのですね」
言われてアディは、口をひらいた長身の執事に視線を向ける。
「我が国の王太子を、まるで子供のようにお扱いになられる。彼の身分を軽々しくご覧になられているようでは困りますね」
「そ、そんなことは……!」
慌てるアディをしり目に、ルースは天蓋にむかって頭をさげる。
「では、これにて失礼いたします」
天蓋の中からの視線を、アディは確かに感じた。中にいる影は、チラリとも動かずにまっすぐにアディを見つめているようだ。
アディたち三人は、もう一度礼をすると、ルースに促されて部屋を出た。
☆
「これから一月の間、この離宮であなたがたには王太子妃としての知識、教養、作法などを身につけていただきます」
別室に通された三人は、あらためてルースからこれからの説明を受けていた。
「王太子妃に選ばれれば、あなたたちはいずれキリリシア王国を治める王妃となるのです。そのことを心にとめ忘れることなく学んでください。あなたたちの様子は、私から逐一テオフィルス様にご報告申し上げます」
そうして三人をふるいにかけて、選ばれた一人が王太子妃となるのだ。
王太子妃教育とは言うが、王太子妃の候補としてここにいる時点でおそらくアディのように他の二人も、貴族としての教養は一通り持っているはずだ。あとは人柄などを、実際に目で見て判断をするということなのだろう。
「あの……テオフィルス様には、もうお会いできないのですか?」
おっとりとポーレットが聞いた。ルースは、眼鏡の下で細めた目をポーレットに向ける。
「基本的には、お会いできないと思ってください。テオフィルス様はあまり人と会うことを好まれませんしお体にも障ります」




