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「お待たせいたしました」
決意を新たにしていると、すぐにルースが着替えて戻ってきた。
「では、これから殿下のもとへお連れします」
(え?)
促されて立ち上がった二人も、アディと同様どことなく戸惑っている。金髪の女性が、口を開いた。
「王太子妃の候補となるのは、これだけですの?」
「はい」
答えたルースに、アディは驚きを隠せなかった。
事情があるとはいえ、まさか王太子妃候補がたった三人とは思わなかったのだ。
王宮からの声がかりにもかかわらずたった三人の令嬢しか集まらなかったことに、同情めいた気持ちがアディの胸に湧き上がる。
あまりにも、それは寂しい光景だった。未来を望まれない王太子は、今どんな気持ちでいるのだろう。
他の二人も、一瞬驚いた顔はしたものの、すぐに納得したような顔つきになった。その顔が、諦めなのか達観なのか、アディにはわからなかったが。
ルースに連れられて歩いている途中、窓から見える景色で、ようやくアディは自分のいたのが王宮の離れに位置する建物だという事がわかった。こじんまりしてみえたのも当然だ。この建物とは別に、はるか向こうにはここよりもさらに大きな建物がそびえている。
アディがいたのは、王太子のための離宮だった。
「殿下、お連れしました」
三人が連れていかれたのは、離宮のほぼ中央に位置する部屋だった。
中からメイドの声が返ったのでルースは扉をあける。
広い部屋だったが、中は薄暗かった。昼間だというのに、窓という窓にカーテンがひかれているせいだ。
その部屋の真ん中に天蓋に包まれた大きなベッドが一つあり、その中に体を起こしている影が見える。わきには、女官らしき年配の女性が一人、控えていた。
天蓋の薄いレースの向こうにいる人物の表情や顔色はまったくわからなかったが、うっすらと見える影はやけに細かった。国王が筋骨隆々とした体格の持ち主であったため無意識に王太子も同じようなものだと思っていたのだが、そのあまりの違いようにアディは面食らう。本当に病弱なのだということを、あらためてアディは実感した。
アディの横を、金髪の女性が足音も立てずに進んでいった。彼女は、手にした扇を閉じてベッドの前に立つと、しなやかなドレスを少し持ち上げて膝を折り完璧な淑女の礼をとった。それを見てあわててアディも、その横について礼を取り頭をさげる。遅れて、栗色の髪の女性も二人に倣った。
「こちらが、王太子妃候補の皆様となります」
そう言って、まずルースは金髪の女性を見た。
「エレオノーラ・メイスフィール公爵令嬢様」
その紹介を聞いて、アディは下を向いたままぎょっとする。
メイスフィール公爵家といえば、キリリシア王国でも名門中の名門だ。アディとて伯爵令嬢として身分は低くないが、公爵令嬢とは文字通り格が違う。これは私に出番はないかな、とアディは半分諦めモードに入った。




