山の様子と勢揃い
御前をちょっと失礼して、これまで作った特殊植物の増産を始める。
ついでにこの小山がどんな場所かも確認する。
どうやってこんな地形になったかはわからないが。巨大な岩盤がさらに下方から割られながら持ち上がり、その隙間に土が挟まって小山になったようだ。小山とは言うけれど、俺とホワイトタイガーのいたあたりは中腹で、しかも洞窟の入り口あたりだった。洞窟は斜めに折り重なった大岩が作り出した空間であり、奥はどうなっているのかはまだ見ていないが、匂いから多分ホワイトタイガーの巣になっているようだ。
小山の麓はジャングルに覆われてはっきりしないが、ジャングルが途切れて地衣類や種々の灌木の根が張ってこの小山の崩壊を防いでいる。植物の種を撒いて育てながら山をぐるりと回る。さっきは地面に手をついたが、足でも「生えよ」と命じたら生えた。どうやら大地との接触が条件らしい。ついでに言うとどれだけやっても疲れることはなかった。植物を育てる力は、大地の底からやってくるからで、俺の力ではないようだ。
山をぐるりと回ると、川があった。
……絶句である。山の山頂近くに間欠泉があり、その水が落ちて川になっているのだ。川は二つに分かれてそれぞれ麓のジャングルに飲み込まれ、先がどうなっているかはわからない。これだけの水量が流れているのだ。山の地形も数年単位で変わっていくだろうと思われた。将来的には、なんらかの防護策が必要になるかも知れない。
流れる水に触れると、それが持つ情報が伝わってくる。この時点では飲用に耐える水だった。水瓢箪を作る必要はなかったんじゃないかと思ったが、あれはあれで水筒の代わりになるし、水の汚れた地方に行けば重宝するだろうと考え直した。飲料水は十分戦争の理由になるのだ。
川に脚をつっこみ、流れにバランスを取られそうになりながら渡る。足首くらいまでの深さだが、流れは急だ。
さらに山を回ると、今度こそ絶句した。
一帯が暑いのだ。と言うか、足元の石が熱い。熱さのおかげでこの辺の植生も違うものになっている。渡ろうとしたが、裸足(と言うより全裸)な俺には、無理だった。真夏の砂浜に素足で駆け込むようなギャグをする気はなかった。
少し戻って、葉の暑い灌木を見つけた。力を使って組み替える。椿のような花が咲き、枯れて種が取れた。その種をまいてまた力を使って生長させた。分厚くて頑丈な葉ができた。大きさは一枚が三十センチ近い。
それを二枚、枝から抜いて、手でちぎって加工する。文字通りの草履である。それを履いて暑いあたりに行くと、耐えきれないほどではなく渡ることができた。
少し散策してわかったが、そこからほぼ真下に伸びる洞窟があり、その遥か下方には、赤く灼けたマグマが見えた。……ほんとこの小山は何がどうなってるんだ。
この辺は植樹には向かないので、種はまかない。暑い地帯を抜けた後はまた種を撒きながら、さらに回って元の洞窟の入り口に戻ってきた。
――遅い。
「うわ」
ホワイトタイガーにたしなめられたが、声が出たのはその様子からだ。
洞窟の入り口、ホワイトタイガーを距離をおいて扇状にたくさんの猫たちが取り巻いていたからだ。
ぱっと見、ウンピョウ、トラ、ピューマ、オセロット、チーター、マーゲイ、ライオン(雄)、ボブキャト、サーバル、ゴールデンキャット、マヌルネコ、クロアシネコの一団、ジャガー、ジャングルキャット、カラカル、スナドリネコ、コドコド……等がいた。もちろん、そのように見えると言うだけで地球の同じ種とは限らないし、もしその種であれば熱帯にいるはずもない種も多い。本当にこのあたりはこの辺がデタラメだ。だが、これだけの種類の猫が揃っているなど、地球ではどこの動物園に行っても決して見られない光景だろう。
ホワイトタイガーが吠えた。俺を猫たちに紹介してくれるようだ。
――これが新たな下僕だ。従え。我らを救うだろう。
「よ、よろしくお願いします!」
俺は直立不動になってから最敬礼した。草履だけのフリチン姿で。
今回の開発種
草履椿(椿モドキから開発)
葉が大型で非常に厚く頑丈で、簡易な靴底に使える。椿の花は美しい。