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キャットエイジ  作者: むいむい。
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器と召集

 野生動物であれば、川や池の水を飲むことに躊躇はないかも知れない。

 けれど、猫科であれば水を嫌うことも多い。そのためか、流れる水を飲むのが下手すぎる猫もいる。それを考えると、猫には水を飲ませるための容器があることが望ましい。

 最初に、先刻作った猫缶の実の反対側を使うことも考えたが、あれは油がべったりであり、水を注ぐ器には向いていない。なので、新しく作るしかないだろう。

 器に使えそうな物……と言う視点でこの小山に生えた植物を見回すと、竹が目に入った。

 これだ、と目が奪われると同時に、なんでこんなところに竹やぶが、と驚いた。普通、竹は生命力が強すぎて他の植物を駆逐してしまうものだが、ここでは何かの理由で共存ができているようだった。もう植生なんて言う言葉が馬鹿らしくなってくる。異世界故だろうか。

 そう言えば、名前とか、この世界がどんな社会なのか全然知らない。ホワイトタイガーは多分偉い方なのだろうが、元が動物なのであまり論理立てての説明などしてくれそうもないが。

 そんなことを考えながら、俺は竹を手に取る。和食のちょっと気取った店にあるような、竹製品の器を思い出していた。

 竹を一本、両手で包みながら想像する。その竹は、直径が最大で30センチくらいは必要だ。そして、節と節の間は15センチもあればいい。それを10段くらい。そして、それぞれの節のすぐ下のところが、ちょっと力を入れると割れて切り離せるようになってるといい。そして節の中は清潔で、食器に使っても大丈夫なように。将来的に熱い物も入れることがあるだろうから、耐熱性も耐水性も必要だ。

 そんなことを考えていると、竹に花が咲き始めた。本来六十年だか百二十年だかに一度の現象である。花はあっと言う間に枯れ、種を残した。そしてその竹自体が立ち枯れた。竹は地下茎のはずなんだが、他の竹は無事なようだ。不可解ではあるが、好都合でもある。

 得られた種をその場に植えて、再度「生えよ」と命じると、ずんぐりむっくりした竹が数本、たちまちに生えてきた。成長を終えたそのうちの一本に、俺は拳を叩き込む。カッコーンと言う小気味よい音とともに、その竹はバラバラになって1ダースほどの膳になった。

 そのうちの二つを拾い、ふっと息を吹きかけて土を払った。おすわりして待つホワイトタイガーの前に両方置き、二つの水瓢箪を新たに開けて中身をそこに注いだ。

――肉ももうひとつだ。

 言われて、猫缶の実をもう二つ開ける。中身を空の方の器に盛り付けた。ホワイトタイガーは待ちきれないのか、完全に盛り付ける前に顔を突っ込んできた。うーん、偉くても猫だ。

 もそもそと食べ終えるのを眺めて待つ。ああ、猫が食事するところもかわいいなあ。心が和んでいく。

 食べ終え、水もべしゃべしゃと飲み終えると、口の周りをベロベロと舐めながらホワイトタイガーは元のおすわりの姿勢に戻った。

――うまかったぞ。

「お粗末様でした」

――数を用意せよ。

「え」

 途端に、ホワイトタイガーはぐわっと息を吸い、高らかに天に向かって吠えた。

 それは召集だった。これを聞いた同胞たちよ、子等よ、ここに集え。助け合って、ここを目指せ。そんな意味の言葉を、このジャングルと、さらにその向こうのはるかな範囲に向かって叫んでいた。

 遠吠えを終えた後、ホワイトタイガーはすっきりした顔で俺を見た。

――全ての同胞を、救え。下僕よ。

「……あっはい」

 反射的に応えていた。猫には逆らえない。

今回の開発種

器竹(竹モドキから開発)

節のすぐ下に繊維に切れ目が入っていて、力を入れるとそこから外れるようになっている。

分割した節は食器にするのにちょうどいい。

大型の肉食獣のキャットフードの器にしやすいように、直径は大きくしてある。

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