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キャットエイジ  作者: むいむい。
3/6

猫の下僕、異能に目覚める

 俺の手の中に一抱えもあるアボカド(に形だけは似た木の実)。俺はそれをじっと眺めた。

(知りたいと念じろ、だって?)

 だが、念じるまでもなかった。俺の手を通して、そのアボカドもどきの情報が直接伝わってきたのだ。

「ええっ!?」

 じんわりと情報が染み込んでくる。それは木か草か、多年生か一年生か、必要な栄養は、花が咲くまでにかかる日数は、花の色や形や香りは、受粉には何が必要か、実はどれくらいでできて、どんな味で歯ごたえで、どんな栄養素が含まれて……。アボカドもどきの持つ情報の内、知りたいと思うものばかりが脳裏に浮かぶようになった。

「ん、これは?」

 読み取った情報の中に「猫科には弱毒」と言う項目があった。

「いかん! こんな物がこの世に存在していい訳がない!」

 俺は無花果いちじくを呪った救世主のような気分になって、強く「毒はあってはならない」と思った。するとその思いが通じたのか、「猫科には弱毒」と言う項目が消えてしまった。

「……」

 少し考えた末に、俺は試しに念じてみた。

「もっと果肉が多ければいいのに」

 すると、アボカドもどきの果肉が増え、反比例するように皮が薄くなった。果肉でパンパンだ。

「……」

――何をしている。

 ホワイトタイガーに指摘されて、我に返った。

――早く食べられるようにせよ。

 言外に、食べられなかったらお前を食べると言われているような気がして、俺はアボカドもどきに向き直った。

(いやでもこれただの果物だろ。森のバターとか呼ばれてるような代物ではあるけど、果物は果物、んー。肉みたいになればいいのに)

 そう思った途端、アボカドもどきの果肉の質が変化した。ミンチのような歯ごたえの、肉のような味がする物になった。

(……猫缶、そうか猫缶だ)

 アボカドもどきの果肉は、何百回も開けてきた猫缶の中の肉のようになった。ミケが好きなのはどんな銘柄だったかな。思い出すと同時に、肉質がそれに変わった。

「後は……パッカンじゃないとな」

 アボカドもどきの皮に筋が走った。多分、ここに力を入れたらぱかりと開くのだろうな。

(とりあえず、これで行くか)

 だが、手の中のアボカドもどきは何も変わっていない。変わったのは、その中の種の情報だ。エディタで書き換えるように、遺伝子を操作してしまったようだ。

 俺はもがれたアボカドもどきの隣の地面に手を入れた。土はすんなりと俺の手を受け入れ、そこにアボカドもどきを入れられるくらいの穴ができた。アボカドもどきを手に取り、その穴に入れる。

「生えよ」

 どうすればいいかわかった。大地に両手をついて命じた。地の底から何かのエネルギーが湧き出てきて、埋めたアボカドもどきを直撃した。すると、定点観測カメラの早回しのように、アボカドもどきを内側から破って芽が出て、するすると伸びて木になり、いくつもの実を成らせた。まるで奇跡だ。

 実が熟したところで成長は止まった。俺は恐る恐る手を伸ばし、実の一つをもいだ。色や形はさっきのアボカドもどきそっくりだが、皮は薄く筋が入っていて簡単に割れそうだった。思い描いた通りの実になっていた。

「……」

 両手で持ち、親指を筋に添えてぐっと力を入れた。ぱかり、とあっけなく開き、中からキャットフードのような丸い塊が姿を見せた。果肉は左手側にあり、右手側にはからっぽの殻と、その奥に種があった。

 俺はこの果肉をホワイトタイガーに見せようと振り向くと、音もなく近づいたホワイトタイガーの顔が真正面にあった。だがその目は、俺の左手側をじっと見ていた。ふんふんと鼻を鳴らしている。とても、とても気になるらしい。

 苦笑して差し出した。

「どうぞ。お口にあいますかどうか」

 途端に前肢が出て俺の左手首をぐっと抑えた。俺はたまらず地面に倒れた。アボカドもどきをひっくり返さないようにするのがやっとだ。そのまま、ホワイトタイガーは器に顔を突っ込んでほんの二口ほどで果肉を食べてしまった。舌をべろんべろんと動かして、器に残った油を舐め取ることまでやってしまった。

 舌の強さで器が吹っ飛ぶと、ホワイトタイガーは我に返ってばっと体を起こし、おすわりをした。済ました顔を見せるが、どことなくバツが悪そうだ。

――まあまあであった。

 精一杯の威厳とともにホワイトタイガーの気持ちが伝わってきた。

「食べていただきありがとうございます」

 俺もまた、思わずニヤニヤと返してしまった。

今回の開発種

猫缶の実(アボカドもどきから開発)

実の大きさや色はアボカドに似ているが、中にはしっかり肉のキャットフード(っぽい果肉)が詰まっている。簡単に二つに割れ、片方に果肉が、もう片方に種が乗るようになっている。

味は猫科動物には最高のもの。ただ、野生種にとっては歯ごたえがなさすぎるので、病人食か離乳食のような扱いを受ける。

食べ終えた後の殻は、油分が多いので水を汲む容器には使いづらい。捨てて土に返すか、火を着けるかくらいしか使いみちがない。

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