定番のトラック転移
深夜のことだ。
俺は三徹の後、ようやく自宅に帰ることを許されて、気分的にだけだが足取りも軽く街頭に照らされた歩道を歩いていた。
家には、愛猫が待っている。あ、妻もいる。忘れるところだった。ミケの方が大事なのだ。そのことで妻が怒ることもない。妻もまた、俺よりミケの方が大切なのだ。だから俺も怒らない。
俺が働いて稼ぐのは、妻とミケを養うためだ。妻はおまけに過ぎない。ミケのための全自動餌出し機として考えた場合、これ以上の性能を持つ機械はヨドバシにはないからだ。妻も多分、餌稼ぎマシンとして俺のことを考えているのだと思う。
改めて考えると、俺と妻の関係は歪なのではないかと感じることもあるが、ミケの丸くなった寝姿を思い出すとどうでもよくなるのだった。
「待っててくれ、ミケ。多分寝てるだろうけど、会いに行くよ!」
スキップ気分で、実際にはフラフラな足取りで、俺は家路を急ぐ。
その時、白い虎とすれ違った。
「ん?」
それは確かに、白い虎だった。ホワイトタイガー。白地に黒のストライプが入り、大型猫科特有のしなやかさと力強さと兼ね備えた優美な肢体を見せつけながら、車道をゆったりと歩いていた。
「え?」
俺は足を止めて振り向いた。すると、ホワイトタイガーも、腰をおろし、首だけをこちらに向けていた。だが、すぐにホワイトタイガーは黒いシルエットになる。迫るヘッドライト。
「危ない!」
俺はホワイトタイガーに駆け寄った。三徹した後にしては、素早かったと思う。
全ての猫は大切にされるべきである。少なくとも、俺の目の前で猫が傷つくようなことがあってはならない。決してならない。
俺はホワイトタイガーに体当たりしようとして路上に飛び出て、しかし俺の体はホワイトタイガーを幻のようにすり抜けた。
「あ?」
何が起こったのか理解する前に、迫りくるトラックが俺をあの世までぶっ飛ばした。