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サイガは改めてベッドの中の青い顔をしたコチョウを見、心配そうに眉を下げた。
「顔色が悪い。薬はちゃんと飲んでいるか」
その問いに曖昧に頷いてみせたコチョウは、ぱくぱくと口を動かして先日の買い物のことを伝えようとする。しばらく首を傾げていたサイガは、やっと思い当たって小さく微笑んだ。
「気にするなと言っただろう。とにかく今はゆっくり休め」
何か話したいことがあったはずのサイガは、また来るとだけ告げてあっさり帰って行った。彼の背中の向こうで煩わしそうに彼を睨んでいたカトレアは、彼が後ろを振り向くとすぐに微笑み愛想よく外へ案内をした。優しい方だなとほっと心を温めていたコチョウは、やがて部屋に戻ってきた義姉に布団を剥ぎ取られベッドから突き落とされた。
「ああ汚い、全部全部洗濯してちょうだい!」
勢いよく絨毯の上に落ちたコチョウはその衝撃にぐにゃっと目が回り、ついに体力の限界を迎えそのまま意識を手放した。
次に目を覚ました時、コチョウは暖炉のある部屋の隅っこに薄い布を一枚被って転がされていた。ようやく朝日が昇ったくらいの時刻だろうか、部屋は薄暗く暖炉の火は消えているが、まだほんのりと空気は暖かい。コチョウは、昨日よりもいくらかましになっている体調にほっとしながら上半身を起こした。昨日サイガに会ったことだけは覚えているが、そこから先の記憶がなかった。いつもならコチョウの部屋として当てがわれている屋根裏部屋に放り込まれていたところだが、さすがに死なれては困ると考えたのか、あそこまで運ぶのが手間だったのか。コチョウは一晩だけでも隙間風の入らない部屋に置いてもらえたことに感謝した。
――でも、あのまま死んでしまってもよかったのに。
虚ろな目でそんなことを考えて、コチョウはもそもそと動き出した。昨日は何も出来なかったので、やらなければならないことはたくさん溜まっている。ひとまず今、やるべきことをやろう。これからのことは、それが終わってから。コチョウは重い体を動かして、着替えるために屋根裏部屋へと向かった。