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マキタのところへ戻ると、それほど間を置かず急に城へ戻ることになった。コチョウはロイエーズの家のことを気にしていたが、リュカが全くといっていいほど取り合わなかったので諦める他なかった。
「コチョウ、どうしたの? 何かあった?」
見送りに外まで出てきたミアが、再びリュカに背負われる前に、ぎゅっとコチョウの両手をとった。向かい合わせになると、ミアの方が少し背が高い。心配そうに顔を覗き込んでくる彼女に、コチョウはどうしたものか迷って視線を彷徨わせる。
「もし何か困ったことがあったら、いつでも言ってね。私に出来ることなんかすごく少ないかもしれないけど、必ず貴方の力になる。だから、あまり思いつめないで」
困った時に助け合うのが友達でしょ?握られた手が、声が、笑顔が、温かすぎて涙が出そうになった。
「わあ、泣かないで! ごめんね、大丈夫?」
涙を堪えてふるふると震え出したコチョウを、慌てたミアがぎゅっと抱きしめる。
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。コチョウはミアの腕の中で、ついにほろりと涙を零した。
「ねえ、知ってる? 貴方がどういう立場の人だったとしても、友情に隔たりはないの。私たちが友達なのは変わらないわ」
まるで見透かしたようにそんなことを言うミアに、コチョウはこくこくと頷いた。最後にもう一度ぎゅうっと抱きしめあった後、ようやく体を離したミアは、コチョウの手を握りしめながら眉を下げた。
「ずっと思っていたけど、コチョウの手ってすごく冷たいのね。もっと温かくしなきゃだめよ」
「そうだ、体温が下がると病気が忍び寄ってくるからな、基礎体温を上げた方がいい」
二人の様子を見守っていたマキタが、体を温めるためにはこれを食べろあれを食べろとまるで保護者のように言い聞かせる。
「もちろんおまえは分かってるよな」
「・・・・・・」
マキタに話を振られたリュカはつんと素知らぬ顔で彼を無視した。ため息をついて、彼は白衣のポケットに両手を入れた。
「また診察にいくから、それまでにしっかり食べてしっかり寝て、もう少し顔色をよくしておけよ。本当ならうちに入院させたいくらいなんだがな」
渋い顔でとにかく安静にしろと言い含めるマキタは、あいつもあいつだ、もっとしっかり守ってやれよとぼやいた。
「じゃあまたね、今度は甘いものでも食べながら、ゆっくりお話ししましょうね」
「安静に、安静にな。リュカ、頼んだぞ」
コチョウは心からの感謝を込めて頭を下げた。この国には、こんなにも優しい人がいる。自分には、そのもらった優しさに返せるものが何もないことが心苦しかった。
だからせめて、天におられます神様、もしも本当に自分に力があるというのなら、どうか彼らにたくさんの幸せが降り注ぎますように。
目を閉じてそう祈った時、ぱき、と耳元で微かに何かが砕けるような音がした。その小さな音に反応したのはコチョウだけで、きょろきょろしているうちにさっさとリュカに背負われる。一体何の音だったのだろうと小首を傾げながら、コチョウは城へと戻っていった。
「ねえ、コチョウはどうしてあんなに怪我ばかりしているの? もしかしてあの子、お城に匿われているの?」
曲がり角で見えなくなるまで二人の背中を見送った後、ミアは心配そうにマキタに尋ねた。
「・・・・・・まあ、言い方を変えれば匿われてることにはなるかもな。にしてもリュカのやつ、マジで何にも言わずに言っちまったな」
「マギサさんのところで何かあったのかしら? あの子、すごくつらそうな顔をしてたもの。リュカも急いで帰っちゃうし」
今度は二人のためにもっと豪華なごはんを用意するわ、と腕まくりをするミアはふと、別れ際祈るように目を閉じたコチョウの姿を思い出した。
体のあちこちに包帯を巻いていて傷だらけだった彼女は、何かを恨むわけでもなく、とても真っ直ぐな目をしていた。
「・・・・・・また会いたいな」
「また会えるさ」
ミアは、彼女にまた会えますように、神様どうか彼女をお護りくださいと祈りを捧げた。
「いい友達になれたみたいだな」
そんなマキタのどこか安心したような言葉に、ミアはただ嬉しそうに笑った。




