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しあわせと呼ばれた人  作者: なつのいろ
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 それから特に話が続くわけでもなく、アリシアはあっさりと会話を打ち切った。頭を下げる直前、さっと退室していく彼からほんの一瞬、何か言いたそうな空気を感じたのは気のせいだろうか。コチョウはなんとも言えない余韻に浸りながら、彼が出て行った扉をぼんやり見つめた。



「さあ、さっさとお休みください」



 びく、と体を揺らした彼女に若干呆れた目を向けたリュカは、その薄い身体が横になるのに手を貸してやる。ぼんやり虚空を見つめるコチョウに布団を掛けてやりながら、彼は先ほどまでの二人のやりとりを思い返していた。表の顔で彼女と接することになった彼のいかにも葛藤していますといった表情はリュカにとっては非常に分かりやすかったが、普通の人間にはまず分からないだろう。リュカは始終緊張していたコチョウをやはり呆れた目で見やって、全くまどろっこしいなとため息をついた。途端に不安そうな目を向けてくる彼女に気付かないふりをして、リュカもまたさっさと退室する。そうして根は案外と世話焼きな従者は、おそらくは自室で項垂れているだろう己の主人の元へと向かったのだった。




 一人残されたコチョウはといえば、極度の緊張から解放されて強烈な眠気に襲われ、夕食をとることもなく眠り続けていた。いつの間にか暗くなっていた室内でようやく目を覚ました彼女は、一日の大半を睡眠に費やしてしまっている現状にぞっとした。アリシアと顔を合わせた時もベッドから降りることすらままならなかったのだ、もしもこのまま歩けなくなってしまったらと思うと怖くてたまらなかった。歩くことの出来なくなった自分など、あの家に置いてもらえるはずがない。あそこから追い出された自分の末路など目に見えていた。


 少しでも身体を動かした方がいいだろうかとベッドの上で身じろぎをしたコチョウは、突然窓の方から聞こえてきた金属音にぎくっと凍りついた。がこ、窓の外に取り付けられている鉄格子が外れ、室内に射し込んでいた月の光が不自然に乱れる。恐怖に身体を強ばらせるコチョウは、窓からぬうっと現れた影を凝視した。



「ーーお、起きてたか。やれやれ・・・・・・さて、診察の時間だ」



 そのいかにも不審者然とした登場の仕方とはそぐわない、のんびりと間の抜けた声が降ってきた。よっ、と絨毯の上に着地したその人は、ごそごそと白衣を羽織ってからベッドの上で目を白黒させているコチョウの元に近付いてきた。



「俺はマキタ、ちょっと前からお前を診てる医者だ。こんな時間に何だが、まあ、ちぃっと事情があってな」



 コチョウはふと、熱に浮かされている自分に水を飲ませてくれた人のことを思い出した。あれは誰だったのだろうと考え続けていたのだが、もしかしたらこの人だったのかもしれない。コチョウは、慌てて起き上がろうとした身体をすかさず支えて助け起こしてくれるその手に確信を得、ぱくぱくと口を動かして一生懸命謝罪と感謝の意を伝えた。



「んあ?あー、いいいい気にすんな、俺に申し訳ないって思うんならさっさと元気になってくれ」



 口では至極面倒そうにそう言いながらも、手はてきぱきと熱を測ったり血圧を測ったりしている。コチョウは大人しくそれらを受け入れながら、お医者様にかかるのは随分久しぶりだなと思った。



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