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いつもならベッドの中で微睡みながら一日のほとんどの時間を過ごしているコチョウだが、この日ばかりはそうはいかなかった。アリシアが、ここにやってくる。そう思うだけで、あの日向けられた冴え冴えとした眼差しや突き刺さるような心ない言葉が脳裏に蘇って、ぎゅうっと冷たく胸を締め付けた。何故あの人がここに、自分に会いに来るのだろう。
コチョウは、そもそも何故自分がここに囚われているのかを知らなかった。腕を拘束され、時折訪れる侍女たちに最低限の世話をされながら立派な部屋に監禁される日々。特にここのところは体調を崩していたため、記憶すら曖昧だった。ロイエーズの屋敷から攫われこの部屋に連れてこられてからどれくらいの時間が経ったのが、最早彼女には分からなかった。
思考に沈んでいると、外から扉をノックする音が聞こえた。一拍置いて室内に入ってきたリュカはただ一言、アリシア殿下がお見えですと言った。瞬間的に極度に緊張したコチョウは、慌てて身体を起こしベッドの下に降りようとする。しかしこの数週間ですっかり弱ってしまった足はその動きについていけず、がくんと力が抜けた。ベッドから落ち、結果として絨毯が敷かれている床の上に崩れ落ちてしまったコチョウを、ちょうど室内に入ろうとしていたアリシアは目を丸くして見た。震える身体で何とか体勢をとり直そうともがくも、力が入らず立ち上がれない。恐怖で泣きそうになりながら、コチョウは床に這いつくばるようにして平伏した。顔など上げられるはずもなく、彼女はアリシアが一瞬苦しそうに表情を歪めたことに気付かなかった。
「・・・・・・そんなことはしなくていい」
目で合図されコチョウを助け起こしたリュカは、その細い身体をひょいと抱えてベッドの上に戻す。殿下の前でそんな、と言わんばかりに真っ青な顔で再び起き上がろうとする彼女を、リュカは相変わらず無表情のまま、布団を被せがてら有無を言わさず押し戻した。
「そのままでいい」
ベッド脇に少し距離を置いて用意された椅子に座ろうとするアリシアをあわあわと目で追って、コチョウはせめて起き上がらせてくださいと縋るようにリュカを見やった。気付かなかったふりをされるかと思いきや、彼は素早く手を貸してくれる。さすがにアリシアの前で横になったままというのは彼も引っかかるところがあったのだろう。さっと背中にクッションを挟まれて、コチョウはようやくアリシアと対面した。




