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しあわせと呼ばれた人  作者: なつのいろ
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 それから、コチョウは目を覚ます度に銀髪の少年リュカに世話を焼かれるようになった。初めこそひどく緊張してびくびくしていたが、彼はコチョウを傷付けるようなことはしなかったし、むしろ完璧と言っていいほど丁寧に看病してくれていた。彼女が少し肩の力を抜けるようになるまで、それほど時間はかからなかった。


 今日も今日とて食事の世話をしてくれるリュカに、コチョウは感謝を込めて遠慮がちに微笑みかけた。体調は随分回復し、今は熱もすっかり下がっている。ベッド脇に病み上がりの胃に負担をかけないような消化の良い食べ物ばかりを並べる彼は、相変わらずの無表情だ。コチョウは申し訳なさそうに、そしてまるで小動物のように縮こまりながら渡された小さな器の中のスープをふうふうしながら飲んでいる。優しい味付けのそれにほうっと息を吐いたコチョウを、リュカは感情のない目で眺めた。




「今日はアリシア殿下がお会いになられます」




 もう一口スープを口に含んだところだったコチョウは思わず噎せた。すかさず手の中から器を回収され手拭いを渡される。けほけほと咳き込んでいると冷たい手で背中をさすられた。




「公務を終えられ次第、こちらにいらっしゃいます」




 思わず縋るように彼を見上げてしまう。リュカは顔を強張らせているコチョウを冷静に見据えた後、何を言うでもなく淡々と食事の準備を再開した。コチョウはただでさえ良くない顔色をさらに青白くさせ、何やら物思いに耽っている。スプーンを手渡そうと振り返ったリュカは、そのとき初めて彼女が小さく震えていることに気付いた。掛布の上でぎゅっと両手を握り締めており、その細い手は関節が浮き上がり痛々しいほどに白い。




「・・・・・・殿下は、理由も無く人を痛め付けるような方ではありません」




 あの日、アリソン王とアリシアがコチョウと初めて顔を合わせたあの日。リュカは部屋の外に控えてアリシアが出てくるのを待っていた。室内でどんなやりとりがあったのか、何が行われていたのかは分からない。ただ、部屋を出てきたアリシアは険しい顔で一言、あの女を追い出せと命じた。そして足早に歩き去る彼のすぐに後ろに付き従ったリュカは、自室に戻るなり室内をぐるぐると歩き回って頭の中を整理するその姿に少なからず戸惑ったものだった。

 あの時の女が今なお王宮に囚われていて、そして今なお彼の主人はそのことに心を乱されている。それだけで、その女への心象を悪くさせるには十分だった。



 ただ、悪い人間ではないのだろうということは嫌でも理解してきていた。リュカは握力が弱っているらしいコチョウがいつも小さな子どものように一生懸命スプーンを使っている姿や、申し訳なさそうに項垂れて彼の世話を甘受している姿をほぼ毎日目にしている。あのアリソン王が執着しているらしいが、権力者に媚を売って取り入ることを考えそうな人間でもなければ、取り入ることが出来そうな器用さも持ち合わせてはいなさそうだった。欲望渦巻く王宮ではそんな人間は珍しく、そしてそういう裏表のない者ほど真っ先に私利私欲に取り憑かれた者達の餌食になってゆくのだ。



 だからこれは単なる気まぐれだとリュカは自分に言い聞かせた。何せ、この女はリュカにとっては至極どうでもいい、全く関心を寄せる必要のない人間なのだ。己の主人を誤解されているようで癪だっただけ、何も知らず怯えているこの女を、気まぐれにほんの少し哀れに思っただけ。無理やり微笑んでありがとうと口を動かした彼女に気付かないふりをして、リュカはいつものようにただ黙々と彼女の世話を続けた。



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