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コチョウは、まるで水底から浮き上がるようにすうっと意識が戻るのを感じた。頭は相変わらずぼんやりと熱を持っているが、少しだけつらさはましになっている。身じろぎをし瞼を押し上げると、少し離れたところで誰か人の気配がした。慣れた手つきで身体を起こされ、口に水を含ませてくれる。コチョウは夢中でその水を飲んだ後、ようやくほっと息をついた。甲斐甲斐しく背中にクッションを差し込まれ、楽な姿勢でベッドの上に座る。水差しや薬湯などをてきぱきと片付けているその少年に見覚えはない。俯いた拍子に、銀に近い灰色の髪がさらりと流れ落ちる。貴方は、と問いかけようとしたコチョウはしかし、左右色の違う美しい目で強く見据えられて慌てて口を閉ざした。冴え冴えとした冷たさと無関心が宿っているその目には、よくよく身に覚えがあった。
少年ーーリュカは何も言わないまま、緊張して身体を硬くするコチョウの傍で食事の準備をしていた。消化の良い水分の多い粥の入った器を片手に、スプーンを手渡す。恐る恐るそれを手にしたコチョウはしかし、手に力が入らずぽとりとベッドの上に取り落とした。何度挑戦してもきちんと持つことが叶わず、慌てすぎて泣きそうになりながら、幼い子どものように拳でぎゅっと握り締めてようやくスプーンを構える。リュカは相変わらず無表情でそれを眺めた後、コチョウがようやく手にしたそれを黙って取り上げた。怯えて俯く彼女の口元に差し出されたスプーンには、ちょうどいい温度に冷まされた粥が少しだけ載っている。目を白黒させた彼女はしかし、無言の圧力に負けてそっと口を開いた。味は正直分からない。ゆっくりしたペースで差し出される粥をひたすら一生懸命にもぐもぐ咀嚼する。器とスプーンが触れる微かな音以外に何も聞こえない空間で、コチョウは限界まで食べた。最後にもう一度水を飲ませてもらって、丁寧にベッドの上に横たえられる。
「お休みください」
あの、と口を動かすコチョウに気付かぬふりをして、リュカはベッドの傍を離れた。その背中を見送って、コチョウはそうっと両手を自分の目の前に晒した。途端にずきっと痛む腕には、つい数日前までがっちりと紐が食い込んでいた。そこに、今は丁寧に包帯が巻かれている。あの人が、巻いてくれたのだろうか。無関心でとても冷たい目をしているのに触れてくる手は優しく、それがいっそう彼女を混乱させた。ぱたんと手を下ろしたコチョウは、突然ぎゅうっと強烈な恐怖に襲われて心臓を抑える。そして同時に、まるでその恐怖から逃れるためとでも言わんばかりに強い睡魔に襲われた。
昔から、眠っている間だけは痛いことは起こらなかった。眠ってさえいれば、怖いことは起こらない。
本能に従い目を閉じたコチョウは、再びふっと意識を飛ばした。




