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「体調が悪いと聞いたが、到底そうは見えんな。わざわざこの私を自室まで呼びつけるとは、お前も偉くなったものだ」
数刻してようやくアリシアの元を訪れたアリソン王は、ソファーに腰を下ろしながら嫌味たっぷりに言った。アリシアは、そんな兄を無言で睨みつける。
「そう怖い顔をするな。それにしても、お前があれにそこまで関心があったとは」
「・・・・・・何故、あの者がここに」
興味深そうにアリシアの顔を見ていたアリソン王は、彼の問いかけにくっと口端を吊り上げた。
「アリシア、あれは本物かもしれんぞ」
「兄上。もしや、あの幸運の女神とかいう馬鹿げた迷信のことを言っておられるのですか」
「その通りだ。少し前、あれの近くで強い魔力が感知された。おそらく何者かが接触したのだ」
アリシアは、目を爛々と輝かせて随分と確信めいた話し方をするアリソン王に戸惑った。
「しかし、何故それが幸運の女神と結びつくのです。兄上こそ、何故そこまで女神にこだわるのですか」
「それは私にも分からぬ。だが、女神を手に入れた国は永遠の栄光を手にするのだとか。私はそれが欲しい」
アリソン王は、欲しいと思ったものは必ず手に入れる。そして、そのために手段は選ばない男だ。あの優しい花の君が、何故よりにもよって。アリシアは愕然としながらただ目の前の恐ろしい男を見つめた。
「あれは城で囲う。あれにとってもそう悪くない話だろう」
「囲うというのなら、何故怪我を」
「逃さぬためだ。今日は久しぶりに外へ放ってやったが、また怪我を増やしたようだ」
アリシアの眉間にぐっと皺が寄った。珍しく表情豊かな弟を見て、アリソン王は楽しくて堪らないといったように目を細める。
「お前は優しいな、アリシア」
「兄上。私は無意味なことが嫌いなのです。兄上が今やられていることは、全て無意味な行為に思えます」
「意味など無ければ作ればいい。私はわりとあれを気に入っている、行く末くらいは選ばさせてやるさ」
そうだ、しばらくお前が面倒を見るか。そんなことをのたまう王に、アリシアは己の心臓の辺りがひんやり冷え込むのを感じた。この人に何を言ったところで、まるで意味がないのだ。会話が始まる前から、彼の中で相手にやらせたいこと言わせたいことはもうすでに全て決まっている。こちらが何を訴えたところで、最終的に彼の思惑通りの選択をせざるをえなくなるのだ。アリシアは、やはり兄であるこの男のことが怖いと思った。
「元よりそのつもりだったのでしょう」
「物分かりの良い弟を持てて私は幸せだ」
アリソン王が右手を上げると、しずしずと入室してきた数人の侍女がアリシアの寝室の方へと消えて行く。
「報せを待て」
それだけ言い置いて王は退室した。アリシアは、彼に続きコチョウを抱えて出て行く侍女たちを黙って見送った。




