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しあわせと呼ばれた人  作者: なつのいろ
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 手紙には、変わらず感謝の言葉と気遣いの言葉、それからどうしても今日は行けないのだと謝罪の言葉が綴られていた。アリシアは三回ほどその文面を読み直して、誰が見ても一発で何かあったのだと分かるほどがっくり肩を落とした。やはり誘わないほうがよかったのだと落ち込む彼を見兼ねて、近くでそっと様子を見守っていた店員の女性が遠慮がちに声を掛ける。



「その手紙を託していかれた方、本当に申し訳なさそうにされていたんですよ。私達にまで何度も頭を下げていかれて」



 その様子が簡単に想像出来てしまったアリシアは思わず眉を下げた。きっと、何かどうしてもここに来られない事情があったに違いないのだ。



「お姉さん、教えてくれてありがとう」

「どういたしまして。・・・・・・あの、この後もし時間があるようでしたら、ぜひあっちの市場の方に行ってみてください。おすすめですよ」

「あはは、ありがとう。行ってみるね」



 少し言いづらそうに、しかしどこか目をきらきらさせてそんなことを教えてくれた彼女は、何故か頑張ってくださいねと言い残して店の中に戻っていった。アリシアはもう一度手の中の手紙を読み返して、とぼとぼと城に帰ろうと歩き出す。



「・・・・・・リアンに悪いなあ」



 いつも忙しくしているリアンがわざわざ時間を割いて自分のために動いてくれたのに、結局何も行動を起こせなかった自分が情けない。そんな思いがアリシアの足を止め、そして先ほどおすすめされた市場に寄り道するきっかけとなった。


 人混みがあまり好きではないアリシアは、街に降りてくることはあっても市場の方にはあまり近寄ったことがなかった。露店が立ち並ぶ賑やかな通りを遠目に見ながら近付くかどうか迷っていると、ふとその雑踏の中に見覚えのある後ろ姿を見つけたような気がした。アリシアは反射的に走り出し、躊躇いなくその細い腕を掴む。



「――っ、あの!」



 目を見開いて振り返ったその人は、確かにアリシアがつい先ほどまで待っていた人物だった。買い物途中だったのか大きな買い物かごを片手に、相変わらずの薄着でそこに立っている。



「あの、お、僕、えっと・・・・・・伝言!伝言を預かってて。あっ、そもそも僕のこと覚えてるかな?」



 焦って言葉を重ねるアリシアを目を丸くして見ていた彼女は、にこっと笑ってこくこくと頷いてみせた。



「あっ、本当に?良かった・・・・・・」



 そうじゃないだろと自分を叱咤激励しながら、アリシアは必死に自分の脳みそを回転させる。



「えっと、この間の花束の人から伝言があるんだ。よかったら聴いてほしい」

「・・・・・・」



 途端に彼女は申し訳なさそうな顔になって頭を下げる。アリシアは慌ててやめてやめてと騒がしく声を上げた。



「謝らなくていいんだよ!自分のことばっかりで、君の都合を考えずに無理に呼び出すようなことをしてごめん」



 そうだ、これではあの時の兄と同じではないか。アリシアは思わず自嘲した。



「・・・・・・手紙をありがとう。本当に君は気にしないで」



 首を横に振る彼女はというと、何か言いたそうにアリシアの顔を見上げていた。



「あ、えっと、何か書くもの」



 ごそごそと胸元を漁るもののつい先ほど受け取った手紙しか見つからず途方にくれていると、彼女はそっと彼の手をとって、その手のひらに文字を書いた。

嬉しかったです、ごめんなさい、ありがとうございます。そう綴られる見えない文字たちにきゅっと胸を締め付けられたアリシアは、衝動的に口を開いた。



「あのさ!もしよかったら、手紙を交換しない?」



 気が向いたらでいいんだ、断ってくれても構わないから、無理なら無理で全然いいから、と言い訳のように言葉を続けるアリシアを、彼女はぽかんと見つめている。そして、やがて花が咲くように笑った。



「・・・・・・!本当に?いいの?ありがとう!」



 ぱっと顔を輝かせたアリシアは近いうち必ず手紙を送ると約束をして、それから一通り彼女の買い物を手伝ってから城へと帰った。


 変装を解いた彼を出迎えたリアンは、早速文通のことを聞いて手紙と一緒に送る菓子のことでああでもないこうでもないと思案している。アリシアは期待に胸を膨らませながら、自分が持っている便箋の中で彼女に一番似合うものはどれだろうと考えていた。

 そうして二人の間には、ペンフレンドという関係が築かれたのだった。





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