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パーティーの華とムードメーカー

「んでアイザック次はどうする」

「とりあえず町に戻って勧誘の続きといこうか」


 森から再びクリスタルのある広場まで戻ってきた。

 さっきとは違って中央のクリスタル周りに露店を開いてるプレイヤーがいる。


 この町はまだ店すらない。アイテムのやり取りは当分露店がメインになりそうだな……。

 


「どうやら町の中央なら誰でも露店を開けるらしいな」

「ふーん。あぁどっかに可愛い子いないかなー」


 周囲を鋭い目つきで見回しているクロウ。

 彼の目には既に女の子しか映っていないようだ。


「お、いたいた。なぁあの子に声かけようぜ」


 クロウが指差したのはフードの付いたローブを着た、金髪の女の子だった。

 低めの背に、幼さが残る顔をしている。ああいうのがクロウの好みなのだろうか。

 


「参考までにあの娘がいいと思った理由を聞いてもいいか」

「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれた」


 さも誇らしげに胸を張りがならクロウは語りだす。


「まずあの子の格好だ。ローブを着ているだろ」

「そうだな。魔法系を意識してそうだな」

「そう、そしてキャラメイクの装備には魔法使い用のとんがり帽子もあったのに、わざわざあのローブを選んだ――つまりはヒーラー系の志望ということになる」

「よく覚えてるな」


 キャラメイク時に装備が買える仕様なのは個性を出すためだろうか?

 でもやっぱり、俺は自分の装備は自分で作りたい派だ。


「褒めるのはまだ早いぜ。ヒーラーはMMOだとソロでの効率の悪さから敬遠されがちだ。そのためMMO経験者のネカマはヒーラー系を避ける傾向にある」

「ふむふむ」

「さらにそれだけじゃないんだ。彼女はキョロキョロと周りを見ているが、それと一緒に自分を確認してるだろう」


 そういえば彼女は下を向いて自分の手や足、服がどんな風か見ているようだ。


「あれこそVR初心者がよくやる行動の一つ、自分確認だ!」

「あー……俺もやったかもしれんな」

「そしてこのゲームはVRMMOでは珍しく生産系が主軸で、対人要素が薄い。このことから前評判でも女性人気がそこそこ高かったんだ。つまりここから導かれる結論は一つ」

「……その結論とは?」

「彼女が右も左も分からない、VRもMMORPGも初めての女性と言うことだ!」


 この観察力、意外とすごいやつではないだろうか。


「じゃあアイザック勧誘は頼んだぞ」

「あそこまで力説しといて誘うのは俺かよ」

「いやだって……いざ声をかけるとなると……なぁ」


 肝心なところでへたれだな。


「分かった分かった。行って来るよ」

「頼んだぜ。草葉の陰から見守ってるからな」


 そういってクロウはクリスタルの周りにある石柱の影に隠れてしまう。

 その言い回しだと死んでるんだが……まぁ面白いから黙っておこう。




 気を取り直してローブの女の子に近づく。


「初めましてこんにちは」


 声をこけると、彼女は少し驚いた表情をした。

 きっといきなり見知らぬ人に話しかけられるとは思わなかったのだろう。


 サラサラの金髪に不安げな表情、どことなく小動物をイメージさせる。

 これは結構可愛い――いや変に意識するといけない。


「こ、こんにちは……」

「今初心者の人を誘ってパーティーを作ってるんですよ。よかったら一緒にどうですか?」

「えと、その、私まだ始めたばかりで、このゲーム何にも分からないんですけど」


「みんなそんな感じなんで大丈夫です。分からないことがあれば教えあったり話し合ったりです」

「そ、そうですか……」


 困り顔のまま上目遣いでこちらを見る彼女。どうやら迷っているみたいだ。

 クロウの見立てどおり初心者なのだとしたら、警戒してしまうのも仕方ないだろう。


「一人でまったりやるのもいいだろうし、無理して参加しなくてもいいからね」

「いえ……せっかくお誘い頂いたので、参加してみます」

「そうか、ありがとう」


 てっきり断られると思ったけどオーケーを貰えた。

 早速顔だけ出してこっちを覗いていたクロウを手招きで呼ぶ。


「改めてよろしく。俺はアイザックで、こっちがクロウ」

「よろしく頼むぜ」

「アイザックさんとクロウさんですね。私はシアラと言います」


 これで三人か。パーティーは多過ぎると動きが鈍くなるが、あと一人二人欲しいところだ。


「ねぇちょっとそこの君」


 後ろからかけられた声に振り向く。

 そこには声の主と思われる女性がいた。


 艶やかな長い黒髪に、薄着の初期服からは女性らしい体の曲線が見て取れ、人目で美人だと分かった。

 しかし何より目を引くのは後ろに背負った大剣だ。


 背の高さに近い巨大な木の棒、その片側の側面に無骨な石の刃を取り付けただけの、包丁に近い大剣だ。

 サービス開始から短時間でここまでの大物を装備しているのだから只者ではないだろう。


「私ナデシコって言うの。よければ私もそのパーティーに入れてくれないかしら?」

「もちろんいいぜ。実は丁度最後の一人は黒髪美人で大きい剣を持った人にしようって話してたんだよ。なぁいいよなアイザック」


 勿論そんな話はしていない。

 相手が美人だからって調子のいいやつだ。


「あぁ構わないよ」

「そ、ありがと。実はそこの二人がさっき話してるの聞いててね。この娘だけじゃちょっと心配になっちゃって」


 ふわりとシアラの肩を抱くナデシコ。

 あぁそういうことか。さっきの力説が聞こえていたなら不安になるのも頷けるな。

 そしてよく分かっていない様子でシアラは首を傾げている。


「お二人は何を話されてたんですか?」

「え、いやあ、その、あれだよ、あれあれ。なぁアイザック」


 ここで俺に振るのか。


「えっと、可愛い子をパーティーに誘いたいな、って話をしてたんだよ」

「そ、そうなんですか……」


 シアラは少し恥ずかしそうにモジモジとしている。

 もし長い付き合いになったら、いつか本当のことを話してあげよう……。



「じゃあもう一度改めて自己紹介しよう。俺がパーティーリーダーのアイザックだ。気になることがあったら何でも相談してくれ。あとパーティー内で話すときは無理して敬語を使わず、崩してくれて構わない」


 一礼して次のクロウに投げる。


「漆黒の隼、クロウだ。みんなのムードメーカーだからよろしくな!」


 ……隼じゃなくてカラスだろう。

 というかこいつ自分でムードメーカーとか言っちゃうのか。


「自分で言うのね……」


 どうやらナデシコも同じことを考えていたようだ。

 彼女のほうに視線を送ると目が合った。そしてうんうんと頷くと、同じように首を縦に軽く振ってくれる。

 詳しく言わなくてもクロウがどんな奴だか察してくれたに違いない。 



「わ、私はシアラです。初心者です。よ、よろしくお願いします」


 シアラは短い挨拶のあと深々と頭を下げた。

 初々しい感じが出ていて、微笑ましい気分になる。



「私はナデシコよ。戦闘面なら頼りにしてもらってもいいわ」


 この装備に加えて堂々とした態度、こっちは大物臭がすごい。

 美人なのと相まって怒らせたら怖そうだな。



 ひとまず四人での簡単な自己紹介が終わった。

 だが初心者もいることだ、何かする前にもう少し話をしてパーティーに馴染んでもらった方がいいだろう。



「よしじゃあみんなよろしく頼むな。まずは個人のことでもゲームのことでも、何か質問はあるかい?」

「はいはい」


 元気に手をあげるクロウ。


「はいクロウ」

「シアラちゃんの実年齢をお」

「さぁ他に質問ある人ー」


 ああいうのはスルーに限る。


「わ、私の年齢は、」

「答えなくていいのよ、シアラ」


 律儀に答えようとしたシアラをナデシコが止める。ナイスフォローだ。

 そして今度はナデシコが手を上げた。


「はいナデシコどうぞ」

「今度クロウがセクハラ発言したら蹴っていいかしら?」

「いいぞ。渾身の一撃を入れてくれて構わない」

「分かったわ。穴が開くくらいのをお見舞いするから」


 クロウはそりゃないぜといった表情でこちらを見てくる。


「他に質問ある人」

「はいはい」


 またもやクロウが手をあげる。


「はいどうぞ」

「ナデシコのスリーサイズを」


 言い終わる前にナデシコの素早い蹴りがクロウの腹部に直撃する。派手な音がして大げさに仰け反るものの、既にパーティーを組んでいるのでダメージはない。 

 モンスターに使ったらさぞ良いダメージが出そうだ。

 蹴られた箇所をパッパと払い、むかつく顔でなんともないアピールをするクロウに対して、ナデシコは不満な顔をしていた。


「クロウ、話が進まないだろ。あんまり脱線が多いと、おまえの食事だけトマッシュの果実フルコースにするぞ」

「それはマジ止めて」


 クロウのおちゃらけた口調が真面目トーンに早代わりだ。


「フフッ」


 くだらないやり取りだが、聞いていたシアラは笑っていた。


「なんだか、みんな楽しそうな人たちで良かったです」

「そうだろうそうだろう」


 なぜかとても自慢げなクロウ。まぁクロウのおかげが大きいのは確かか。

 知らない人と組むのは緊張するだろうし、これで少しでも気持ちが楽になってくれるといいんだが。

 続いてはシアラが手を上げた。


「ところでこのゲームって、始めは何をしたらいいんでしょうか」

「このゲームの真髄は、好きなものを好きなだけ作れることだぜ。なんたって何でも作れるんだ! シアラは何が作りたいんだ?」

「……何でもって言われると……ちょっと悩んでしまいます」


 自由度が高過ぎるのも、人によってはネックになってしまうみたいだ。


「まぁみんなで戦ったり採取したり作ったり、協力して色々しながら、その過程で好みのものを探して行けばいいんじゃないか」

「そうね、まずは色々やってみるのがいいと思うわ」

「分かりました」

「ようし、んで何からするよ」


 シアラの装備を作りに森に行くのもいいが……。


「今この広場には露店が出始めたし、せっかくだからこの流れに乗ってみるか」


 話している間に、さっきよりも露店の数がかなり増えてきている。

 ちょっとしたフリーマーケットのお祭りみたいだ。


「いいわね。まだ相場も決まってないだろうし、上手くいけば稼げるかもしれないわ」

「んじゃあそうしますかね」

「私もできることがあれば頑張ります!」



 四人パーティーになっての初仕事だ。

 できれば土地を買うためにも多めにお金を貯めたい。


「さて、問題は露店で何を売るかだ」

「露店なんて適当に狩りをして余ったやつ売ればいいんじゃねぇの?」

「何言ってんだ。四人パーティーなんだから、人数を活かして需要がありそうなものを大量生産して安く売る。これが鉄板だ」


 適当なアイテムを売ろうとしても露店じゃなかなか売れないんだこれが。昔やってた別のMMOでは店番をしながら寝落ちしたこともあったな。


「なるほどなー」

「そうなんですねー」


 クロウとシアラは仲良くうんうんと頷いていた。


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